第4話

優しさはいつも
涼(りょう)
涼(りょう)
泣いたの?
帰ってきた涼にはお見通しだったようで、咄嗟に顔を伏せる。
顔を洗ったり、少しコンシーラーを付けてみたりしたけれど、まぶたの腫れは隠しきれなかった。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
··········
涼(りょう)
涼(りょう)
里奈になんか言われた?
今日、彼女が我が家に来ることを涼にあらかじめ伝えていた。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
べつになにも。楽しかったよ
涼(りょう)
涼(りょう)
そう、よかった
「でもね、」と彼は加える。
涼(りょう)
涼(りょう)
柊花の表情の奥を見抜けないほど、俺は鈍感じゃない
わずかに震えた言葉じりが胸を引っ掻く。
また別の痛みを作る。
私は黙ったまま涼を見つめた。
涼(りょう)
涼(りょう)
··········ごめんな
こんなに静かな彼の声を聞くのは初めてだった。
頬をゆっくりとつたう、一粒の光でさえも、消えてしまいそうなほど弱々しいもので。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
どうして·····涼が謝るの
里奈が言ったように、彼の自由を縛っているのは私の方。なのに、どうしてそんな顔をするの。
彼が謝る必要なんて、これっぽっちもない。
ないんだよ。
私は両足をきちんと地につけ、立ち上がる。つま先には、薄い刃物で切込みを入れられるような感覚が走った。

本来なら、悲鳴を上げるかもしれない。ちょびっとだけ弱音を吐くかもしれない。

だけど、今だけは、それにあらがえる自信があった。
そのまま彼に体重を預けて、胸元に飛び込む。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
涼··········
涼(りょう)
涼(りょう)
足、痛いでしょ。座りな。
なにもできない自分は、もう嫌なの。
私は子供のように左右に激しく首を振る。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
すき
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
私ね、涼のことだいすきだよ
ちゃんと伝えたかった。
せめて、彼が戦う不安の一部をすくい取りたくて。
涼(りょう)
涼(りょう)
俺は··········
涼(りょう)
涼(りょう)
あいしてる
強く抱き締められ、熱と、鼓動と、息遣いのすべてで私を覆い尽くす。
このまま閉じ込められてしまいたい。ここに繋ぎとめられるよりも、確かなものが欲しい。
それはきっと、彼も同じなのだと思う。



言葉の通り、彼も私を、愛してくれているから。
しかし、この瞬間も脂汗が止まらない。背中につーっと流れる。額にとめどなくにじむ。呼吸を荒げずに酸素を取り入れるのが、とても苦しい。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
っ·····ぁっ·····
お願いだから、もう少しだけ。
あと少しだけでいい、このままでいさせて。
願わくば、まだ、幸せのカタチを彼の元から消し去らないで欲しいのです。