「新木馬亊さんですか?」
『はい、そうです』
「どうぞ入ってください」
病院に着いてすぐ、看護師さんに案内されて、病室へ入った。
入ってすぐに見えた彼女は、ひどく顔が真っ青で、息もしていなかった。
看護師さんに、「手を握ってあげてください」と言われて、彼女の前に座ると、苦しそうだけど、彼女は弱々しくこう言った。
「馬亊…夜遅くに来てもらって…ごめんね」
『大丈夫、お前はもう少し楽にしろ』
「ありがとう…長く生きられなくてごめんね」
『…今から死ぬみたいに言うなよ』
「だって…そうかもしれないでしょ」
『先生達が頑張ってるのに、お前がそんなに弱気でどうするんだよ』
「そうだね…ごめん」
『いいけどさ』
「…もっと一緒にいたかったよ」
『俺もだよ』
「馬亊と結婚したかった」
『…そうだな』
「…馬亊」
『ん?』
「…最後まで愛してくれて、ありが…」
その瞬間、彼女は俺の手を離した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!