第18話

消えそうな言葉
73
2019/09/09 07:58
屋上に着くと、俺達を出迎えるかのように、ドーンと、大きな花火が打ち上げられていた。
陽葵
陽葵
わぁ~!綺麗だね!
馬亊
馬亊
ああ
陽葵
陽葵
小さい頃、よくお母さん達と一緒に見に行ったよね~!
馬亊
馬亊
そうだな
近くまで見に行って、よく二人で迷子になったっけ
陽葵
陽葵
そうそう!
その時に馬亊が絶対に言う口癖が好きなんだよね~!
馬亊
馬亊
え?そんな口癖あったっけ?
陽葵、よく覚えてるな…
陽葵
陽葵
「大丈夫、絶対俺が守るから」
馬亊
馬亊
思い出した…
まあ、あれは毎回のように陽葵が泣くからなんだけどな…
陽葵
陽葵
あの言葉を聞くと、なんだか安心しちゃうんだ
馬亊
馬亊
…なあ、陽葵
今しかない。今言うんだ。
陽葵
陽葵
なーに?
陽葵がゆっくりと振り返った。
馬亊
馬亊
…俺、陽葵のことが好きだ
言い終えた瞬間、タイミングを狙っていたかのように、大きな花火が打ち上がった。
陽葵
陽葵
馬亊…
陽葵
陽葵
でも、私、もうすぐ死ぬかもしれないんだよ…?
馬亊
馬亊
…分かってる
馬亊
馬亊
だからこそ、陽葵のそばにいたい
陽葵を守りたいんだ
俺の言葉を聞いて、陽葵が俯いた。
陽葵
陽葵
…私も
馬亊
馬亊
え?
陽葵
陽葵
…っ、私も、馬亊のことが好き!
馬亊
馬亊
鮮やかな花火に彩られた、陽葵の顔は、いつもより大人びて見えた。
ああ、このままずっと、二人で花火を見ていられたらいいのに…
陽葵
陽葵
……っ
馬亊
馬亊
陽葵?
陽葵を見ると、…泣いていた。
陽葵
陽葵
…っ、ごめん、嬉しいのに、なんだか切なくて
俺は、陽葵を抱き締めた。
陽葵
陽葵
…馬亊?
馬亊
馬亊
…大丈夫、絶対俺が守るから
俺は、陽葵を抱き締める両手の力を強めた。
馬亊
馬亊
…だから、俺のそばから離れるなよ
陽葵は、一瞬驚いた後、いつもの笑顔で笑った。
陽葵
陽葵
…うん!
私、一番大事な言葉を忘れてたみたいだね
馬亊
馬亊
…そうだよ
次は忘れるなよ?
陽葵
陽葵
もちろん!
一生覚えておくよ!
馬亊
馬亊
一生って(笑)
陽葵
陽葵
これだけは自信あるんだ!
馬亊
馬亊
…そうだな、俺も今日のことは一生忘れないよ
ピピピピ、ピピピピ。
陽葵
陽葵
ん?
馬亊
馬亊
俺のスマホ
10分前に鳴るように設定しておいたんだ
陽葵
陽葵
そっか
空を見ると、花火もそろそろクライマックスのようだった。
馬亊
馬亊
そろそろ戻るか
陽葵
陽葵
ま、馬亊!
馬亊
馬亊
ん?
陽葵
陽葵
最後に、ひとつだけ…
陽葵が上目遣いで俺を見た。
馬亊
馬亊
なに?
陽葵
陽葵
…え、えっと…
陽葵は、俯きながら口ごもる。
チラッと見えた顔は、少し赤くなっていた。
陽葵
陽葵
…キ、キス…してほしい…
馬亊
馬亊
陽葵からこんなことを言うなんて、想像もしなかった。
馬亊
馬亊
…じゃあ、目閉じて
陽葵
陽葵
う、うん…
陽葵がゆっくりと目を閉じた。
俺は、陽葵の顎に手を当て、自分の顔を近付けていき…唇と唇を重ねた。
それから、ゆっくりと顔を離した。
陽葵
陽葵
…あ、ありがとう…
陽葵は、やはり俯きながら、そう言った。
馬亊
馬亊
…戻るか
陽葵
陽葵
うん…
俺も陽葵も、あえて触れなかったけど、お互いの顔は、真っ赤だった。
俺達は、手を繋いで病室へ戻った。

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