「じゃぁ、新入生、少し走ってみよーか。
まず、佐藤、鈴木、中島、野原!」
「「「「はいっ」」」」
それは、野原くんが陸上部に入りたいっていうのを知ってたから。
葵ちゃんが同じ中学だったんだもんね。
中学生の時陸上部だったんだって。
「ひゃー、やっぱかっこいい!」
「でもいいの?
そんな不純な動機で〜。」
葵ちゃんが鋭く突っ込む。
「う。
い、いやまぁ、ほら、私陸上好きだし!!」
「中学バレー部って言ってたのに?
クラスマッチでも絶対ボール競技って言ってたのに?
この前の体力測定で50m走9秒台で「マジ走るの無理」って言ってたのに?」
「うぅ…」
「っあはは…!」
思わずその光景に吹き出してしまう。
「こらっあなた笑うなっ!」
「ご、ごめ…」
だって、葵ちゃんが間髪入れず優梨ちゃんの真似をしながら言うのがおかしかったんだもん。
「あは、…も、笑い止まんないっ…」
「えぇーっ」
こんなに笑うところでもないのに、ツボに入ってしまったみたいで、どうしよ、止まんないよっ…
ーっ
あ。
一瞬で私の笑いは止まった。
別のことに意識がいったから。
一ノ瀬先輩を、見つけたから。
グラウンドの隅にいる私たち。
そこから見える3階の一室。
一ノ瀬先輩が窓を開けて誰かに向かって叫んでる。
下を見ると、サッカー部の1人がそれに応えていた。
あそこは…生徒会室だったような…
あ、そういえば、生徒総会のとき、会計報告か何かを…
「っ!あなたっ!」
「えっ。」
「もー、突然笑いだして止まったかと思えば、何フリーズしてんのーっ?」
「あっ…あぁ…ごめんっ」
「今日変だよ?大丈夫?」
「え…うん…」
もう…
病気かな…?
「ごめん、私家帰るね…」
「え…うん、あなたお大事にね?」
「ありがと…」
「はぁー…」
家に帰って自分の部屋のベッドに横になる。
あ、そうだ、熱はかってみよう。
春休み後の1週間の学校で疲れが出たのかな…
でも、だるいわけじゃないし、咳とかもない。
ーピピッ。
体温計を脇から外し、文字盤を見る。
36.4…
平熱だ…
な、なんで…?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!