「おはよーっ」
「あ、あなた!
おはよぉ〜」
あれから数日、オリエンテーションとか健康診断とか色々あって、今日から授業開始!
1時間目から、苦手な理科だぁ…
高校生になると、“理科”ってくくりじゃなくて細かく化学とか生物とかになるんだよね…
「生物室、どこだっけ?」
「理科棟のー…」
「3階、3番教室っ」
「「え?」」
後ろから声がして振り返ると、知らない男子生徒が立っていた。
靴の色が緑…3年生…?
「生物室は、理科棟3階3番教室だよ」
「えっ…あっ、ありがとうございます…」
「あ、あのさぁ、桝本凌我ってこのクラス?」
戸惑っている私たちに、話を続ける先輩。
「あ、はいっ、そうですけど…」
「そっか〜ありがとっ」
そう言ってその先輩は3年生の教室の方へ向かっていった。
「と、とりあえず行こっか」
「そだねっ」
「あ。」
理科棟に着いたところで私は立ち止まった。
「ん?
どした、あなた」
「資料集、忘れてきちゃった…」
持ってるのは教科書、ノート、筆箱だけ。
ロッカーに入れっぱなしだ…
「今日、一応全部持って来いって言ってたよね。」
「ちょっと、先行ってて〜
私取ってくる。」
「時間、大丈夫?」
スマホで時間を確認すると、授業開始までまだあと5分あった。
「大丈夫、早く出たおかげで。
行ってくるね」
もうっ!
忘れ物しちゃうなんてツイてないなぁ。
焦る気持ちから小走りになる。
どうしよう、あと何分?
ぱっとまたスマホに目を移した。
ドンッ。
強い衝撃と共に、私のノートや教科書が床に落ちる。
「すみませんっ…」
前、見てなかったから…
人とぶつかっちゃった。
うぅ、靴の色、緑色だ…
よりによって男の先輩にぶつかっちゃうなんて…
慌ててノートを拾う。
「ごめんね?
大丈夫?」
ぶつかった相手は、しゃがんで教科書を拾ってくれた。
「はいっ、大丈夫です…
ごめんなさい…」
私は顔を上げる。
「っ…」
一瞬、時間が止まったかと思った。
そして、コロンとビー玉が落ちるような音を聞いた気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!