第20話

オワリ
721
2019/03/22 00:18
「すみませんっ、もう少し急げませんか?」


片桐先輩が運転手の人に声をかける。


さっきから窓の外の景色が変わらない。


「うーん…渋滞してるねぇ…

なんでも、工事中みたいで…」


「っ」


そんな…


こんなときに限って!


「病院までなら、ここで降りて走った方が早いかもしれないよ」


「じゃあっ、降ります!!」


私たちは車を降りて走った。


「多分10分くらいで着くと…!」


早く、もっと早くっ…


「はぁ、はあっ…」


お願いっ…


間に合って…!


「はいっ、片桐ですっ」


先輩が前を走りながらスマホを耳にあてる。


「えっ…」


片桐先輩は急に足を止めた。


「片桐先輩…?」


どうしたんですか?


急がなくていいんですか?


「あなたちゃん…」


ゆっくり、先輩が振り返った。


その顔は青ざめて、目の光も失っていた。


ドクン。


嫌な予感。


どうして走らないんですか。


どうしてそんな顔…っ


「侑生が…

今、息を引き取ったって…」


「っ…」


ぐっと首を締められる感覚に襲われる。


お腹のあたりが気持ち悪い。


目の前が真っ暗になって、足の力も抜け、地面に膝をついた。


間に合わなかった…


先輩…っ


ツーと冷たい雫が頬を伝う。


優しい笑顔。


困った顔。


一緒に帰ったこと。


沢山話してくれたこと。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ…!」


子供のように泣きじゃくった。


泣けない、泣いちゃダメ。


私より、ずっとずっと隣にいた、片桐先輩のほうが辛いはずなんだから。


それなのに、止まらないよ…っ


もう先輩に会えない。


もう何も話せない。


話したいことは沢山あったのに。


彼女がいるって聞いて、避けて、遠ざけて、何もしなかった、ぶつかろうともしなかった、私は…


私は…っ


何も出来なかった。


何もしてあげられなかった。


好きも、ありがとうも…


さよならすら言えてない。


こんな形で、終わりを告げられるなんて…


後悔、悲しみ、寂しさ、喪失感。


全部が矢となって胸に刺さる。


痛い、苦しい。


私はこれを、どう乗り越えろって言うの?


一ノ瀬先輩はもういない。


私は今日、好きな人を失った。

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