あぁ、だりぃ。夏休みに塾かよ。
サヤカは、中学校の同級生だ。
比較的大人しいヤツだが、話し出すと案外話すし、結構面白い。周りの女子らより随分マシだと思う。
驚いたようにサヤカが言った。
大きめの瞳が見開かれる。
そして、どこかホッとしたように
と言った。
俺は宿題を教えてくれと頼んだ。
彼女は他の人の方が分かりやすいのに、と
ボヤきながらも教えてくれた。
中学1・2年の時まで塾に行っていなかった
らしい。それでもうこの問題を理解出来るのはすごいと思う。サヤカ、お前は努力家だ。
せっかく教えてもらっているのに、俺はほとんど聞いていなかった。細いフレームのメガネの奥の、綺麗な瞳ばかり見ていた。
ハッとして問題集に目を戻した。
聞いていなかったなんて言ったら、どんな顔をするんだろう。
もっかい教えろよと抵抗しながら、フッと気が付いた。サヤカの目は、俺を見てはいなかった。周りをそっと見渡している。
あぁ、と俺は思った。女子達だ。
アイツらにとって、俺は「リョウ君」でしかない。カッコよくて面白くて賢くて運動神経バツグンで・・・と、少女漫画のヒーローか俺は?と頭が痛くなる。
サヤカは肩を竦めて笑った。
俺はこっそり同意した。
帰り、宿題教えろよ?と念を押して、
俺は席に戻った。
何故か帰りが少し楽しみに思えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。