第7話

アブナイ!?放課後③
1,226
2019/01/01 02:05
イヤホンを両耳につけられ、動画がスタートした。


のぞき込んだそれに、釘付けになる。


大袈裟でもなんでもなく、わたしは、一度たりともまばたきをすることができなかった。


それほどに、彼らの音楽、パフォーマンスに魅了されたのだ。


「カッ……コイイ。すごい……!」


語彙力なさすぎる感想しか言えない自分が悲しい。


「もっかい見るー?」
「一度と言わず。何度でも見くなる……!」
「じゃあ。一晩中、ボクとみちゃう?」
「……?」
「歌ってあげるよ。すずちゃんのためだけに」


一晩中、とは。


「ちょっとよくわからないけど……子守唄ってこと?」
「え?」
「あ、これってチャンネル登録したら帰ってからも自分のスマホで見られるよね。あとでリンク送っておいてもらえるかな?」
「…………」


笑顔のまま固まるクセくん。


チラッと先生に向けると(もうタバコを吸い終わり、近くの席にかけている)、ぷるぷる震えている。


なんだか笑いを堪えているように見えるけど、どうして?


他の人も、なにも、言わない。


「口説いたつもりなのにな」
「へ?」
「枕元で君だけのために歌ってあげるってこと。もちろん一緒に眠ることを前提として」


(そんな意味だったの!?)


「はあ。解説をさせられるのって、むなしいね」
「ご、ごめんクセくん……!」
「ううん。いいんだ。そういう反応こそ新鮮で。インスピレーション感じそうだからさ」


そう言いながらも虚無感のある表情を浮かべるクセくん。


「今の台詞、久世のファンが聞いたら嬉しさで気絶しかねないのにな?」

と、先生。


「ほんとにねー。なんで、すずちゃんには響かないんだろう」
「歌声は響いたよ……! 今もドキドキしてる。クセくん、ヴォーカルなんだね」
「うん」


それで、ギターは、ユキさんでしょ?


「ベースの黒髪の人は……黒いマスクつけてて顔がよく見えないね」


でも、このシルエット。

どこかで。それも最近、見たことがあるような……?


「僕だよ」と答えたのは、上野くんだった。


「ええ!?……ほんとに?」
「正体を、隠している。だから内緒にしていて欲しい」
「そうなんだ。わかった、誰にも言わないよ!……でも。どうして隠すの?」


クセくんもユキくんも、顔出してるのに。


「日常生活は穏やかに過ごしたい」


なるほど。騒がれたくないのか。


「ドラムのひとは眼帯してたね」


……まさか。この流れだと。


「ハーイ。それ、俺」

手をあげたのは、谷繁先生だった。


「ほ、ほんとに!?」


なにやってるんですか先生?


「疑うのか?」
「だって。映像では茶髪でした」
「あー。それはウィッグだ」
「!?」
「バレたらマズいからな。イロイロと」


つまり、ここにいる4人が人気バンドのメンバーだったのか。


そしてそれは世間には公表されていないと。


「タニセンはボクの幼なじみなんだ」
「クセくんの?」
「バンド結成のきっかけも、元々はタニセンが学生時代に組んでたバンドに憧れたことだった」
「……あれ。それじゃあ。タニセンって、谷繁先生の略じゃないの?」


すると、クセくんが黒板に近づき、チョークを左手に持つとこう書いた。


【谷繁 泉】


「タニシゲセン。略してタニセン」
「そうだったのか……!」
「昔からのニックネームだよね、タニセン」
「ああ」
「タニセンは、サポメンなんだ」


(サポメン……?)


理解が追いつかないでいると、


「サポートメンバー。前のドラムが抜けて、新しいメンバー見つかるまでの間、手助けを頼んでいる」と上野くんが補足してくれた。


「よくバレないね」
「基本的にMCは、ボクしか喋らないし。ファンとの交流があるときもボクが仕切るからね」


教室ではチャラ男くんだったけれど、社交的でコミュ力のあるクセくんは、そういう場では限りなく無敵だなと思った。


「ってことで。すずちゃん借りてくね」


ふわっと肩に手を回される。突然のことに、ビクッと震えてしまった。


「その反応、すごい新鮮」
「ええ……?」


あの、そんなことより、とても近いのだけど……!


「稲本さんに、何をするつもりだ」
「怖い顔しないでー。ボクはすずちゃんを家まで無事送り届けたら帰るから。ね?」
「そういうことなら。きちんと送れよ」


上野くんが、納得する。だけど。


「離れろよ。困ってんだろ」


ユキくんが、割って入ってくる。おかげでクセくんから開放された。


「あれー。妬いてんの?」


(!?)


「誰でもオマエにシッポ振ると思うなよ」
「そのうち振るさ。すずちゃんも」
「それはどうかな」


(な、なんか。ケンカしてない……?)


「ユキがムキになるなんて珍しーね」
「オマエこそ。特定の誰かを気に入るなんて初めてじゃねえの」
「そうなんだよね。だからこそ、なにか閃きそうなわけで」


ニッと笑うクセくん。


「……期待してる」


そう言って、ユキくんが、わたしから離れる。


「じゃあボクはすずちゃんと帰るね。おさきー」


今度は、腰に手を回される。

……懲りないひとだ。


「みんな帰らないの?」


回された手を振り払いながら尋ねる。


「バラバラに解散するんだ。4人でつるんてるとこ見られちゃ怪しまれるでしょ」
「なるほど」
「まあ、今なら学祭の準備とか、なんとでも誤魔化すけど。念には念をって感じかな」


去り際にユキくんを見ると、また、ギターをいじっていた。


「ユキくん」


顔を上げたユキくんと、目が合う。


(さっきの、なんだったの?)


わたしがクセくんと仲良くしてるとムカつくみたいなのとか。

顔赤くするのは俺だけにしろとか……。


「また明日!」
「おう」


聞きたいこと、なにひとつ聞けないまま。

やっとの思いで挨拶をすると、音楽室をあとにした。

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