第28話

転校しただけなのに!
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2019/01/05 11:32
――元旦



ワンマイのメンバーと、イオリくんと、それからわたしで初詣にやってきた。


新年早々カッコイイ男の子たちに囲まれ。

夢のような一年の幕開けである。


「モデルかなー」
「みんなカッコイイね」


小ぢんまりした神社まで来た甲斐あって、大騒ぎになっていない。


でもでも、これから彼らの顔が一段と知れ渡れば、こんな風に一緒に出かけたりすることもなくなったりするのかな。


「すずちゃんがボクに乗り換えますよーに」
「おい久世。願い事は声に出すな。そして由木を新年早々煽るな」


クセくんにツッコミを入れる上野くん。


賽銭箱にお金を入れ、鈴を鳴らしたクセくんが、手を合わせてお祈りする。


今度は声を出さずに、真剣な顔で。


そんなクセくんを見て、バンド活動のことをお願いしてるような気がしてならない。


わたしも、賽銭箱に小銭を入れて手を合わせた。


(ワンマイの曲がもっと広がりますように。そして。ユキくんと……これからも一緒にいられますように)


2つもお願いして贅沢だったかな。


チラッと隣に視線を移すと

ユキくんも同じように目を閉じ、静かになにかを祈っていた。


「おみくじ引こーっと」

クセくんは、誰よりもはしゃいでいる。


「あ。SNSに目撃情報あがり始めた。そろそろ退散するよ」と、イオリくん。


目撃情報!?……どこから?


「近くにいる誰かがコッソリ書き込んだのだろう」


顔色を変えずに上野くんがつぶやく。


(いつの間に…!)


ワンマイのファンの子がいたの?

やっぱり有名人だなぁ。


神社から出て、スモークガラスになっている黒いワゴンへと乗り込む。


「正月から私情で呼び出すなや」


そう言いながらもちゃっかりハンドルを握ってくれるところが優しい、谷繁先生。


「聞いてよ、タニセン。おみくじ半吉だった」
「微妙」
「だよねー。でも初めてみたよ、半吉」


……わたしは凶でした。


「ところでお前ら。勉強の方はやってんだろうな?」
「やめてよー、新年からそんなハナシは」
「いくら自信あっても。過去問くらいは説いとけよ」
「はいはーい」


ここで、ひとつの疑問が浮かぶ。


「そういえばクセくん、どこの高校行くの?」


本格的に音楽活動しながら学校にも通うとなると大変だろうな。


「みんな同じだよー」


(え?)


「由木も、上野も、イオリも」


と、いうことは。


「わたしも」
「そういうこと。でも、ナイショにしててね」
「内緒?」
「ボクと由木が受けるってバレると倍率ドーンとあがるから。曖昧にして誰にも教えてない」


なるほど。


「3年間みんな一緒なんだね!」
「まあ。ボクだけ危ういんだけどね」


クセくん、頭いいのに。

前にわたしに、わからないところを教えてくれたことがある。


なのに、危ないの?


「お前は……寝るもんな」
「そうそう。興味ないと、とことん集中力続かないんだよね。やれば解けるんだけどー」


そうだ。クセくんは試験中、緊張感の欠片もなく熟睡する人だった。


そんな彼だからこそステージの上であんなに堂々とマイクを持てるのかもしれない。


「試験当日くらい本気出しやがれ」
「んー。ながいんだよね。とりあえず全教科合格ラインだけ解いて寝てたい」
「アホか。それで合格できなかったら元も子もない」


うんうん、と先生の言葉に頷くわたし。


「仕方ない。お金包むか」

笑って冗談をいうクセくんに

「汚れたことさせないよ。イメージダウンに繋がるから」真面目に怒るイオリくん。


みんなとスタートさせる高校生活、絶対に楽しいだろうなぁ。
……しかし。


こんなにキラキラした男の子たちと、当たり前のように関わっていることが、未だに信じられないわけで。


「!」


隣にいるユキくんが、黙ったまま、わたしの手を握る。

ユキくんを見ると、つないでいない方の手の人差し指を唇にあてて静かに微笑んだ。


(ユキくん……)


こんなにカッコイイ、バンドマンの彼氏ができたのも奇跡みたいなハナシで。


でも、現実リアルで。


――転校しただけなのに。


わたしの人生、本当に大きく変わっちゃった。



【Fin.】

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