大きな打算を抱きつつ、委員長として奮闘してきた修学旅行も先生の有難いテンプレートな挨拶で無事に幕を閉じた。解散の号令とともに、皆大きなカバンと大きな土産袋を両手に抱え、家路に向かう。その大きな波にのまれるように、移動しかけた私を呼び止める声が一つ。
そう言って、野田(のだ)先生は高木くんの肩をバシバシと力強く叩いて感情を爆発させている。体育教師の野田先生の肩を叩く力はめちゃくちゃ痛いと有名だ。ガタイの良い男性が力一杯感謝などの気持ちを込めて叩くのだから、痛くて当たり前といえば当たり前。ある意味、デリカシーのカケラもないように見える野田先生だが、意外に生徒たちから嫌いという声は上がらない。
恐らくだが、野田先生が好かれる要因は本音を語ることを恥ずかしがらない人柄故と思っている。野田先生は自分が出来ないことを素直に認め、感謝の言葉を口にする。それは子ども相手だろうが生徒あいてだろうが、繕うことなく語ってくれる。だからこそ、憎まれずに受け入れられているのだろう。とはいえ、野田先生に肩を叩かれて無傷な人はまずいない。
ブンブンと手を大きく振って、私たちの元を元気よく離れる野田先生を見送りつつ、私の横で肩に手を当て痛がる高木くんに声を掛けてみる。
きっと今日なら、私が語りかけてもまだ違和感がないはずだから……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。