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第1話

解散したとしても修学旅行は終わっていない
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2018/09/24 06:15
野田先生
無事に家に着くまでが修学旅行だからな! 気を抜くんじゃないぞ!
 大きな打算を抱きつつ、委員長として奮闘してきた修学旅行も先生の有難いテンプレートな挨拶で無事に幕を閉じた。解散の号令とともに、皆大きなカバンと大きな土産袋を両手に抱え、家路に向かう。その大きな波にのまれるように、移動しかけた私を呼び止める声が一つ。
野田先生
片瀬(かたせ)。委員長の仕事、本当にお疲れ様!
高木(たかぎ)と一緒に、きめ細やかに動いてくれて助かったよ。先生だけじゃ、絶対に手が足りなかったよ
片瀬
いえ、そんなこと……
野田先生
本当、本当! 高木も有難うな、お疲れ様!! 今日はゆっくり休めよ!!
高木
う…………っ
 そう言って、野田(のだ)先生は高木くんの肩をバシバシと力強く叩いて感情を爆発させている。体育教師の野田先生の肩を叩く力はめちゃくちゃ痛いと有名だ。ガタイの良い男性が力一杯感謝などの気持ちを込めて叩くのだから、痛くて当たり前といえば当たり前。ある意味、デリカシーのカケラもないように見える野田先生だが、意外に生徒たちから嫌いという声は上がらない。
 恐らくだが、野田先生が好かれる要因は本音を語ることを恥ずかしがらない人柄故と思っている。野田先生は自分が出来ないことを素直に認め、感謝の言葉を口にする。それは子ども相手だろうが生徒あいてだろうが、繕うことなく語ってくれる。だからこそ、憎まれずに受け入れられているのだろう。とはいえ、野田先生に肩を叩かれて無傷な人はまずいない。
野田先生
じゃあ、二人とも気を付けて帰れよー!! また明日なー!!
 ブンブンと手を大きく振って、私たちの元を元気よく離れる野田先生を見送りつつ、私の横で肩に手を当て痛がる高木くんに声を掛けてみる。
 きっと今日なら、私が語りかけてもまだ違和感がないはずだから……。

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