第3話

一瞬さえあれば、流れだってガラッと変わる
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2018/09/24 06:01
 とはいえ、決心していなかった言葉を述べるのは簡単なことではない。
 モゴモゴと口ごもり、ハッキリした気持ちを伝えられぬ間に、高木くんが先制パンチを決めてくる。
高木
そっか。そりゃあ、よかった。
片瀬さんが楽しいと思えてたなら
片瀬
……あはは、は
 ニコニコと屈託のない笑みを浮かべて返してくる高木くんを目の当たりにして、伝えたい気持ちも一気に萎んでくる。まるで恋心が邪な感情のように思えるくらい、純粋な気遣いを示す高木くんに言葉が続かない。何とも居た堪れない気持ちでいっぱいになっていた私に向けて、高木くんはイタズラな笑みを浮かべて耳元で囁く。
高木
てか、楽しくない訳ないよね?
俺と今までで一番濃密に過ごした三日間だしね?
片瀬
……へっ!?
 いきなり腹黒よろしくダークなオーラ全開で語る高木くんに思わず素っ頓狂な声が飛びてしまう。そんな私の様子を見て、高木くんはいつもの調子で優しく思い出を語り始める。
高木
二人でガイドブック読み込んだ甲斐もあったよねー。
おかげで迅速な連携プレイが出来て、迷子の被害だって最小限に済ませれた訳だし
片瀬
あ、あれは本当に高木くんに感謝し……
 普段と変わらぬ穏やかな口調だからこそ、油断した。
 いつも通りの優しい気配り上手の高木くんだと思って、気を緩めてしまった。まさか、そこから一気に畳み掛けるとは思いもせずに……。
高木
だけど、その後にこっそり寄り道して団子食べたとか。
実はその団子屋はガイドブックを読み込んでたからこそ行けたこととか。クラスのみんなは、なーんにも知らないけどね
片瀬
え、と……。
高木く……んは、何を言いたい……の?
 クスクスと笑みをこぼす高木くんの声は、いつもと打って変わって嫌味な響きをしていて、思わず尋ね返す言葉が震えてしまう。
 動揺している私の声を聞いた後、高木くんは実にうれしそうに述べてた。
高木
そのまんま、だよ。
世話係よろしく奉仕活動がんばってたのは、俺がいたからでしょ? 俺との時間を楽しみたかった、違う?

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