第7話

7話
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2022/11/17 11:00
佐藤茅華
佐藤茅華
お待たせ!ごめんね!
笑いながら走ってくる女の子が茅華だと気づくまでに、少し時間がかかった。
端谷翔人
端谷翔人
お前、なんだよその格好。
佐藤茅華
佐藤茅華
失礼なやつだな!なんだよとはなんだ!夏祭りといったら、浴衣でしょ?
水色の浴衣の袖をひらひらさせながら茅華は言った。
いや、今までも何度か一緒に夏祭りに行ったことはあるけど、浴衣なんて着てきたことないだろ。

佐藤茅華
佐藤茅華
ねぇ!勝也、こいつ失礼だよね!?
内海勝也
内海勝也
え、あ、あぁ。うん。そうだね。えっと。に、似合ってるよ。
尻すぼみに勝也は呟く。
佐藤茅華
佐藤茅華
よし。じゃあ揃ったし、行くか。
茅華が何かを言うより先に、僕は歩き出した。
なぜだか、茅華にそのまま返答させてはいけないような気がした。

3人横並びで歩く。
今から行く夏祭りは、
地元でも規模が大きい方で、出店などが充実している分、やってくる人も多い。
周囲に人が少しずつ増えていくたび、なんだか僕の気分も高揚していった。
この気分を味わえただけでも、来る価値はあったかもしれない。
佐藤茅華
佐藤茅華
ねぇ!音!聞こえてきた!
確かに、うっすらと盆踊りの音が聞こえてくる。
茅華はいつものように無邪気に笑っている。
でも、なんて表現したらいいのかわからないけど、
その横顔は、
いつもとは違うように見えた。
それは浴衣のせいなのか、
……それとも勝也がいるせいなのか。

道の両側に出店が見え始めると茅華のテンションがわかりやすく上がる。
佐藤茅華
佐藤茅華
何食べる!?何食べよっか!
と、こんな調子ではしゃぎ始める。
どれだけ綺麗な浴衣を着ていても、やっぱり茅華は茅華のようだ。
なんだかホッとした。
そんなキョロキョロしながら歩いちゃ危ないぞ。
そう言いかけたとき、勝也が茅華の腕を取った。
内海勝也
内海勝也
そんなキョロキョロしてたら、危ない……からさ。
佐藤茅華
佐藤茅華
え!あ、うん。あり……がと。
僕の足は止まった。
そのことに、2人は気づいていない。
だんだん人が増えてきて、自然と3人の横並びが、
2人と1人に分かれていたからだ。
提灯に照らされて赤と橙に染まった2人の背中は、周りからどう見えているんだろうか。
僕には、ただそこに、茅華と勝也がいるだけにしか見えないけど、
周りからしたらそんなことないんだろう。
幼馴染の茅華が、
スポーツ一筋の勝也が、
恋愛なんてするはずがない。
無意識のうちに、本気でそう思っていた。
端谷翔人
端谷翔人
……そりゃあ、まぁ、するよな。
だからなんだって言うんだ。
別にいいじゃないか。
親友と幼馴染が恋仲になったって。
嫌な顔する理由がない。
僕が茅華を好きでもない限り……。
普段は車が行き交う車道にいることが、急に気持ち悪く感じる。
なんで僕はこんなところにいるんだ。
帰りたい。帰りたい。帰りたい。
佐藤茅華
佐藤茅華
あれ?翔人?あ!いた!ねぇ!翔人!何してるの?早く!金魚すくいしようよ!
茅華が手を振っている。
無邪気な、いつもの笑顔で。
その隣には、勝也がいる。
僕は茅華たちの方へと歩き出す。

頼む。
今のこの気持ちだけは、ヒミツのままにさせてくれ。
端谷翔人
端谷翔人
あぁ。来なきゃよかったな。

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