第6話

6話
1,088
2022/11/10 11:00
8月に入り、スズムシが本格的に鳴き出したある日の夜。
茅華からグループにメッセージが届いた。
『明後日の日曜日、神社で夏祭りがあるんだけど3人で行かない?』
3人。
引っかかる単語だ。

あの日以来、プレンドからヒミツが送られてくることはなかったが、
きっと3人全員がヒミツは本物だと確信めいたものを感じているだろう。
普通に考えたらありえない。
だが、
ありえないことを信じている自分がいるのも事実。

本物だとすれば、
一番最初の
『ヒミツ:本当は佐藤茅華のことが好き。』
も僕らの中の誰かが抱えているヒミツということになる。
端谷翔人
端谷翔人
勝也が、茅華のことを。
そのことを理解しようとすればするほど、不思議な気分になっていた。
バスケ一筋だと思っていた勝也が恋をしたこと。
そして何より、茅華が誰かに好かれているということ。

僕は茅華が誰かの彼女になっている姿をあまり想像したくなかった。
茅華のことが好き、
というわけでもないし、そもそも恋というものを理解しているわけでもない。ただ、幼馴染のそういう姿を見るのは、なんとなく嫌だった。

勝也はいいヤツだ。そんなヤツに好かれて、茅華もまんざらではないのかもしれない。
そうなると、夏祭りに3人で行ったとしても、僕はいないのと同じだ。
『いいよ!夏祭り行きたかったんだよね』
勝也はもちろんそう答える。
そのメッセージを少し眺めた後、僕は、はいともいいえとも言わず、キャラクターが楽しそうにスキップしているスタンプだけ送った。

なんなんだ。
この空虚な気持ちは。
毎週見ているバラエティ番組が、全く面白くなかったのはこの感情のせいなのだろうか。

茅華は勝也のことをどう思っているんだろう。
好き。
なのだろうか。
端谷翔人
端谷翔人
茅華が誰かを好きになるなんて、考えたことなかったな。
端谷翔人
端谷翔人
……あいつも、女の子なのか。
昔から一緒にいるせいか、当たり前のことを今更認識した。

誰に届くわけでもない僕の独り言は、僕の耳にだけ、こびりついて離れなかった。
端谷翔人
端谷翔人
一応。
恥ずかしくなり付け加えたその言葉は、あっという間に消え去り、虚しさだけが部屋に漂った。
夏祭り当日、
僕は神社の最寄りの駅まで茅華と行き、駅で勝也も合流する流れだった。
待ち合わせ時間の直前、茅華からのLIME。
『ごめん!準備に手間取っちゃって!先行ってて!』
とのことだ。
いつもフラッと家を出てくる茅華にしては珍しい。
端谷翔人
端谷翔人
今日は大雨かもな。
そう言いながら家を出ると、空はどんよりとした曇り空だった。
アプリで調べたところ、
降水確率は30%。
まぁ大丈夫だろうと思い、そのまま歩き出す。
電車に揺られ、神社の最寄り駅へと向かう。
改札を出るとすぐ目の前に、勝也がいた。
端谷翔人
端谷翔人
よ。もういたんだ。
内海勝也
内海勝也
うん。楽しみだったからな!
楽しみ。か。
結局あの後のLIMEには、スタンプ以外の返信はできなかった。
スタンプだけなら明言はしてないわけで、当日行かなくても大丈夫だろうと思っていた。
だけど、僕以外の2人で夏祭りに行っているところを想像したら、なんだかいてもたってもいられなくなった。
端谷翔人
端谷翔人
そうか。
内海勝也
内海勝也
じゃあ、ちょっと待つか!
端谷翔人
端谷翔人
そうだな。
茅華からメッセージ。
『あと7分で着くから!』
改札から次々出てくる仲良さそうなカップルたちに、ムズムズしながら茅華を待った。

プリ小説オーディオドラマ