第9話

9話
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2022/12/01 11:00
雨は止むことはなく、花火大会は中止になってしまった。
近くのコンビニで傘を買い、今日はもう帰ることになった。
内海勝也
内海勝也
んじゃあ、2人とも、気をつけて帰れよー!
駅で勝也と別れ、茅華と2人で電車に乗る。
端谷翔人
端谷翔人
残念だったなぁ、花火。
佐藤茅華
佐藤茅華
そうだね。
端谷翔人
端谷翔人
え。
佐藤茅華
佐藤茅華
え?
茅華が意外そうな顔でこちらを覗く。
端谷翔人
端谷翔人
え、何?
佐藤茅華
佐藤茅華
いや、別にそんな楽しみでもなかったし。とか、言うかと思った。
端谷翔人
端谷翔人
僕のことをなんだと思ってんの。
佐藤茅華
佐藤茅華
そういうことを平気な顔で言っちゃうやつ。
端谷翔人
端谷翔人
なんだそれ。
僕は笑って答えた。
それからは特に会話もなく駅を出て、家までの道を歩いた。
今日はなんだかおかしい。
自分でも自分が分からない。
なんでこんなにモヤモヤしてるんだ。
勝也に負けたから?
勝也と茅華が2人していい感じだから?

それとも、
僕は茅華のことが……。

いや、それはやっぱり違う。
恋をしたことはないけど、これは、多分、違うと思う。
じゃあ、なんなんだ。
分からない。
やっぱり分からない。
得体の知れない焦燥感と不安感が、
降水確率30%の割には大雨になってきたこの空模様のように、心を暗くしていく。


いつも以上に時間がかかったが、ようやく僕らの家が見えてくる。
佐藤茅華
佐藤茅華
あ~あ。浴衣びちょびちょだぁ。たこ焼き機、重くない?大丈夫?持たせてごめんね?
端谷翔人
端谷翔人
なぁ茅華。
佐藤茅華
佐藤茅華
何?
端谷翔人
端谷翔人
お前、勝也のこと好きなの?
茅華の顔色が真っ赤のような、青ざめているような、なんとも言えない色に染まったのがわかった。
佐藤茅華
佐藤茅華
は?何言ってんの!?ち、違うよ!そんなんじゃない!
端谷翔人
端谷翔人
好きなやつは?
佐藤茅華
佐藤茅華
い、いないって!
あぁ、僕は最低なやつだ。
2人が両思いなのは分かっているのに。
端谷翔人
端谷翔人
そっか。
自分の気持ちはわからないのに。
端谷翔人
端谷翔人
じゃあ、僕と付き合ってよ。
そう、茅華へと言葉を放った瞬間、時間が止まった。
ように思えた。
雨は空から地面へと、絶えず垂直に落ちてくる。
佐藤茅華
佐藤茅華
え?何言ってんの?
端谷翔人
端谷翔人
だから、付き合おうって。
佐藤茅華
佐藤茅華
本気?
端谷翔人
端谷翔人
まぁ。そうだな。
茅華は目を丸くしている。
端谷翔人
端谷翔人
好きなやつ、いないんだろ?だったら、
僕の言葉を遮って、茅華が口を開く。
佐藤茅華
佐藤茅華
嘘なの!
さっき僕が放った言葉は、リングの縁をぐるぐると回って、
佐藤茅華
佐藤茅華
私、好きな人がいて。誰かは、さすがに言えないんだけど……。
それに、ずっと一緒に過ごしてきた翔人を、そんな風に考えたことなんてなかったし……。
気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。
また、零れ落ちた。
端谷翔人
端谷翔人
なんてな!嘘に決まってんだろ!本気にしてんじゃねーよ!
振られた時のお決まりのセリフを言って、たこ焼き機の入った袋を茅華に押し付け、顔も見ずに家の扉を開けた。
僕は、思いっきり笑ったつもりだったけど、引きつってたんだろう。
茅華は、どんな顔をしていたんだろう。
それから残りの夏休みの間、僕は勝也とも、茅華とも会うことはなかった。

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