雨は止むことはなく、花火大会は中止になってしまった。
近くのコンビニで傘を買い、今日はもう帰ることになった。
駅で勝也と別れ、茅華と2人で電車に乗る。
茅華が意外そうな顔でこちらを覗く。
僕は笑って答えた。
それからは特に会話もなく駅を出て、家までの道を歩いた。
今日はなんだかおかしい。
自分でも自分が分からない。
なんでこんなにモヤモヤしてるんだ。
勝也に負けたから?
勝也と茅華が2人していい感じだから?
それとも、
僕は茅華のことが……。
いや、それはやっぱり違う。
恋をしたことはないけど、これは、多分、違うと思う。
じゃあ、なんなんだ。
分からない。
やっぱり分からない。
得体の知れない焦燥感と不安感が、
降水確率30%の割には大雨になってきたこの空模様のように、心を暗くしていく。
いつも以上に時間がかかったが、ようやく僕らの家が見えてくる。
茅華の顔色が真っ赤のような、青ざめているような、なんとも言えない色に染まったのがわかった。
あぁ、僕は最低なやつだ。
2人が両思いなのは分かっているのに。
自分の気持ちはわからないのに。
そう、茅華へと言葉を放った瞬間、時間が止まった。
ように思えた。
雨は空から地面へと、絶えず垂直に落ちてくる。
茅華は目を丸くしている。
僕の言葉を遮って、茅華が口を開く。
さっき僕が放った言葉は、リングの縁をぐるぐると回って、
また、零れ落ちた。
振られた時のお決まりのセリフを言って、たこ焼き機の入った袋を茅華に押し付け、顔も見ずに家の扉を開けた。
僕は、思いっきり笑ったつもりだったけど、引きつってたんだろう。
茅華は、どんな顔をしていたんだろう。
それから残りの夏休みの間、僕は勝也とも、茅華とも会うことはなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。