第10話

10話
2,031
2022/12/08 11:00
あれ以来、茅華とは会うことはもちろん連絡も取っていなかったし、
勝也とは何かしら理由をつけて、会わないようにしていた。
例のグループで、3人で会おうと誘われても僕は行かなかった。
断り続けていると、次第にグループの会話もなくなっていった。

そして、新学期が始まった。

「おはよう!」

「久しぶり!」

そんな声が学校中から聞こえてくるが、その矢印が僕に向くことはない。
物が詰め込まれたロッカーから無理やり教科書を引っ張り出し、教室へと向かう。
佐藤茅華
佐藤茅華
おはよう!久しぶりじゃん!
茅華の声だ。
誰に話しかけているのか知らないが、あまり視界に入らないようにしよう。
佐藤茅華
佐藤茅華
ねぇ!翔人!無視すんな!
まさか、僕に話しかけていたなんて。
端谷翔人
端谷翔人
あ、あぁ。久しぶり。
振り返ると、茅華は笑って手を振った。
その笑顔は、前とは少し違う、ぎこちない笑顔だった。
きっと、僕に気を使っているんだろう。
少しでも前と同じように会話ができるようにと。
だけど、僕は上手く笑える自信がなくて、そのまま教室に入り、椅子に座った。
ホームルームと1時間目を終えたタイミングで、勝也が教室に入ってきた。
内海勝也
内海勝也
翔人!久しぶりー!
端谷翔人
端谷翔人
あ、あぁ。久しぶり。
勝也との会話もぎこちなくなってしまう。
内海勝也
内海勝也
っていうか、茅華、大丈夫?
端谷翔人
端谷翔人
え、何が。
内海勝也
内海勝也
何がって、聞いてないの?
端谷翔人
端谷翔人
聞くも何も、さっき久々に挨拶したくらいだから。
内海勝也
内海勝也
水泳部、廃部になるらしいぞ。
端谷翔人
端谷翔人
え?
内海勝也
内海勝也
その反応、マジで聞いてないんだな!?今朝、校長に聞かされたらしくて、俺もさっきLIMEで聞いたんだけど。
そうか。
もう茅華は、そういうこと、僕じゃなくて勝也に言うようになったのか。

まず、茅華の心配をしなきゃいけないのに、そんなことを考えてしまった自分を醜く感じる。
端谷翔人
端谷翔人
そりゃあ、残念だったな。
内海勝也
内海勝也
残念って……。なんか、俺たちでできることないかな。校長に直接掛け合ってみるとか。
端谷翔人
端谷翔人
いや、いいんじゃないの?そこまでしなくても。茅華も、もうプロ目指してるわけじゃないっぽいし。
内海勝也
内海勝也
だとしても、こんなあっけない終わり方はないだろ!
端谷翔人
端谷翔人
ここ教室。そんな大きな声出すなよ。ほら、まわりの奴らも驚いてるよ。
勝也はこっちを見ている4、5人に目をやると、顔を強張らせながら
内海勝也
内海勝也
そうだな。ごめん。
と言い、教室を出て行った。
それからまた、1人きりの時間が始まる。
2時間目、3時間目、4時間目を終えて、昼食の時間だ。
僕は購買でパンを買おうと教室を出る。
すると、話したことはないが見たことはある女子生徒3人に囲まれた。
水泳部の後輩
先輩!お願いがあるんです!
あ、思い出した。
この子達は、茅華の水泳部の後輩だ。
水泳部の後輩
あの、お願いが……。
端谷翔人
端谷翔人
ごめん。僕が協力できることはないんだ。
水泳部の後輩
お願いします。話だけでも聞いていただけませんか!
端谷翔人
端谷翔人
たまたま昔から家が近かっただけで、茅華にとっての僕は何者でもないし、僕にとっての茅華も何者でもないからさ。ごめんね。
水泳部の後輩
いえ、そんなことは……!
端谷翔人
端谷翔人
じゃ。
彼女たちの言葉を遮って、僕はその場を離れた。
分かっている。
僕が最低だってことくらい。
でも、僕は僕を、どうすることもできなかった。

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