あれ以来、茅華とは会うことはもちろん連絡も取っていなかったし、
勝也とは何かしら理由をつけて、会わないようにしていた。
例のグループで、3人で会おうと誘われても僕は行かなかった。
断り続けていると、次第にグループの会話もなくなっていった。
そして、新学期が始まった。
「おはよう!」
「久しぶり!」
そんな声が学校中から聞こえてくるが、その矢印が僕に向くことはない。
物が詰め込まれたロッカーから無理やり教科書を引っ張り出し、教室へと向かう。
茅華の声だ。
誰に話しかけているのか知らないが、あまり視界に入らないようにしよう。
まさか、僕に話しかけていたなんて。
振り返ると、茅華は笑って手を振った。
その笑顔は、前とは少し違う、ぎこちない笑顔だった。
きっと、僕に気を使っているんだろう。
少しでも前と同じように会話ができるようにと。
だけど、僕は上手く笑える自信がなくて、そのまま教室に入り、椅子に座った。
ホームルームと1時間目を終えたタイミングで、勝也が教室に入ってきた。
勝也との会話もぎこちなくなってしまう。
そうか。
もう茅華は、そういうこと、僕じゃなくて勝也に言うようになったのか。
まず、茅華の心配をしなきゃいけないのに、そんなことを考えてしまった自分を醜く感じる。
勝也はこっちを見ている4、5人に目をやると、顔を強張らせながら
と言い、教室を出て行った。
それからまた、1人きりの時間が始まる。
2時間目、3時間目、4時間目を終えて、昼食の時間だ。
僕は購買でパンを買おうと教室を出る。
すると、話したことはないが見たことはある女子生徒3人に囲まれた。
あ、思い出した。
この子達は、茅華の水泳部の後輩だ。
彼女たちの言葉を遮って、僕はその場を離れた。
分かっている。
僕が最低だってことくらい。
でも、僕は僕を、どうすることもできなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。