第11話

探偵の秘密……私が知ってもいいんですか?
1,067
2023/05/27 11:00
私は波風先輩に連れられて、普段全く通らない路地を歩いていた。
途中にあるコンビニの前で、波風先輩は立ち止った。
波風卓人
波風卓人
ちょっと買い物してくるから、その辺で待ってて
あなた

はい

あなた

(あそこって、生活用品コーナー?)

店の外から見守っていると、買い物を済ませた先輩が出てくる。
しばらく歩いた先に見えてきたのは。
あなた

病院?

波風卓人
波風卓人
普段は母さんがお見舞いに行ってるんだけど
波風卓人
波風卓人
ちょっと捻挫してなあ
波風卓人
波風卓人
さすがに捻挫した足で毎日通うのは無理だから、最近は俺が代わりに来てるんだよ
受付で連絡をしてから、そのままエレベーターで昇っていく。
六人部屋の病室の一番奥、ベッドの周囲を覆っているカーテンを波風先輩はためらいなく開いた。
波風卓人
波風卓人
父さん、昨日言ってた必要なもの
波風卓人
波風卓人
全部買ってきたから確認して
波風父
ありがとうな
波風父
おう? なんだ隼人
波風父
彼女連れてきたのか?
波風卓人
波風卓人
違うよ、うちの後輩
波風卓人
波風卓人
ここに来る用事があったのを言いそびれてたから
波風卓人
波風卓人
部活ずっと休んでて心配されたんだよ
波風父
そうかそうか
波風父
すまんな
あなた

い、いえ……

あなた

こちらこそ、ここまで勝手についてきちゃってすみません……

あなた

(お父様だからかな、波風先輩と似てる……)

あなた

(というより、波風先輩の格好つけてる口調ってお父様のほうが似合うなあ)

あなた

(でも……お見舞いのなにが、そんなに口外できない話なんだろう)

波風先輩はお父様から洗い物を受け取ると、それを持って病院を出た。
もと来た道を戻りながら、口を開く。
あなた

あのう、お父様のお見舞いでしたら

あなた

言ってくれてもよかったんじゃ……?

波風卓人
波風卓人
うーん、父さんのこと
波風卓人
波風卓人
あんまり口外できる話じゃないからさあ
波風卓人
波風卓人
父さん、依頼人に刺されたんだよ
あなた

えっ……?

あまりにも意外な話に、思わず目をパチパチとさせる。
あなた

(そういえば、お父様。病気という感じではなかった……)

あなた

(布団被ってたから、具合とかは全然わからなかったけど……)

波風先輩は、淡々と続ける。
波風卓人
波風卓人
父さん、もともと探偵事務所やっててさ
波風卓人
波風卓人
探偵って言っても、依頼人から頼まれて調査報告って感じで
波風卓人
波風卓人
うちの部活でやってるような事件の解決って依頼はあんまりないな
波風卓人
波風卓人
そこで、ちょっと問題のある依頼人がいてさ……
波風卓人
波風卓人
その人、よりによって父さんに惚れちゃったんだよ
あなた

……お父様、普通に既婚者、ですよねえ?

波風卓人
波風卓人
うん。母さんも普通に家にいるし
波風卓人
波風卓人
依頼の内容までは言えないけど、依頼人の話を真摯に聞く父さんにそのまま惚れ込んじゃってさあ……
波風卓人
波風卓人
よりによって同業者に依頼して、うちの実家の住所特定したんだ
波風卓人
波風卓人
そこで母さんがいるのに激高して……
あなた

……お母様は、ご無事だったんですか?

波風卓人
波風卓人
父さんが守ったからな
波風卓人
波風卓人
その人は警察に御用
波風卓人
波風卓人
父さんは母さんの代わりに刺されて、病院のお世話になってる
波風卓人
波風卓人
さすがにこういう話は、あんまり学校の中でも公にはできないだろう?
そう言って、波風先輩はいつものように大袈裟に肩を竦めた。
あなた

(たしかに……こんな話、なかなか学校ではできないよね……)

あなた

あのう、すみません

あなた

私、言いにくい話をさせてしまって……

波風卓人
波風卓人
いや? こっちこそ、いらぬ心配をさせてすまなかった
あなた

でも先輩……学校で探偵部をわざわざ創設したのは?

あなた

おうちが大変なことになってるのに……

波風卓人
波風卓人
うーん、俺のエゴ、かな
波風卓人
波風卓人
父さんは真面目に探偵稼業やってて、依頼人に親身になって仕事してたのに
波風卓人
波風卓人
同業者に住所割られた挙句に刺されたのが、なんか悔しいからさ
波風卓人
波風卓人
俺も将来探偵になって、父さんみたいに真っ当に人を助けたいと思ったから
波風卓人
波風卓人
それの予行練習だな
あなた

……怖くないんですか?

あなた

お父様、刺されたのに

波風卓人
波風卓人
父さん、刺されそうになった母さんを助けたからさ
波風卓人
波風卓人
咄嗟の判断で人を助けられた父さんは、やっぱり偉いよ
あなた

……

あなた

(なんだろうなあ、この人)

あなた

(変な人だし、格好つけだし、人のことさんざん振り回すし……)

あなた

(でも、優しいんだよね)

あなた

先輩のそういうところ、とてもいいです

波風卓人
波風卓人
おう、なんだあ?
波風卓人
波風卓人
あなた、俺のことちっとも褒めないのに
波風卓人
波風卓人
影のあるところが格好いいとか思ったかあ?
あなた

そういうのじゃないですよぉ!

あなた

(本当に馬鹿だなあ……)

あなた

(こんなところで自覚するんだ)

あなた

(私……先輩のこと、好きみたい)

波風先輩に家まで送ってもらう間、私は自覚したばかりの気持ちを必死になって悟られないようにした。
今はまだ、この気持ちを誰にも。
波風先輩にだって、知られたくないと思ったから。

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