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第1話

こんにちは乙女ゲームの世界!……あれ?
2,202
2023/03/18 11:00
転落していく。
ガードレールを越えた先はコンクリート。落ちたら間違いなく助からない。
あなた

(ああ、私の人生いっつもこれだ……)

小さい頃から、私は霊感体質だった。
幽霊が見えるのは当たり前。
なにかあったらすぐにラップ音が響き渡り、ポルターガイスト現象が起こる。
周りの人は気持ち悪がって、気付いたら私はいつもひとりだった。
登下校中に見かけるカップルや友達グループが羨ましくて、気付けばゲームに逃げていた。
特に夢中になったのは、青春乙女ゲームだった。
あなた

(乙女ゲームのヒロインだったら、幽霊は見えないのに……)

あなた

(普通に部活を頑張って、普通に友達がいて、普通に恋ができる……)

あなた

(少なくとも、今の私みたいに、幽霊のせいでなにもかも滅茶苦茶になることはないんだろうなあ……)

私が今、転落しているのは、霊障のせいだ。
大学の通学路の坂道を歩いていたら、幽霊に取り憑かれてしまって、そのまんまガードレールの向こうへとダイブ。
体が言うことを聞かなくって、叫んで助けを求めることさえ、できないでいる……。
あなた

(もし、来世があるんだったら、次は霊感のない人生がいいなあ……)

あなた

(普通に友達がいて、普通に部活に励んで、そして普通に恋をするの……)

あなた

(次はもう、こんな寂しい終わり方はしたくないな……)

だんだん地面が近付いてきた。
痛いのは嫌だなあと、私は必死で目を閉じた。
幽霊になって、そのまま未練たらしくさまようのはごめんだった。
あなた

(──……)

あなた

(──…………?)

あなた

(──…………あれ?)

高所からコンクリートに向かって落ちたのに、体がちっとも痛くない。
おまけに気のせいか、目の前がクリアな気がする……。
あなたー、あなた今日から学校でしょう? そろそろ起きないと遅刻するわよー?
あなた

えっ? えっ?

私は慌てて起き上がって気が付いた。
目の前に制服がかかっている。
あなた

(大学には制服がないはずなのに)

あなた

(それにこの学校の制服……)

あなた

(私の好きな乙女ゲーム『青春フォトグラファー』のヒロインの制服じゃない?)

あなたー
あなた

はーい、わかったー!

あなた

(もしかして、これはいわゆる乙女ゲームに転生したという奴なのでは!?)

あなた

(前世の私が可哀想なのを見かねた神様が、一度だけ人生やり直せるチャンスをくれたとか……!)

あなた

(たしかにこのゲームだったら私が前世にやり残したこと、全部できるもの……!)

私はうきうきしながら、制服に袖を通した。

『青春フォトグラファー』
タイトル通り、写真を通して青春を謳歌しようってコンセプトの乙女ゲームだ。
あなた

(主人公は新聞部に所属し、学園内の有名人たちと取材を通して仲良くなっていくの)

あなた

(面白いのは、このゲームは写真を撮りながら進行していくっていうところ)

あなた

(撮った写真のできや、写真を撮りに行った場所でイベントや登場キャラが変わるから、何周プレイをしても全く同じ結果にはならないんだよね)

私は学校に到着し、早速新聞部へと向かっていった。
あなた

(今日は、ゲームの初日……新聞部の体験入部の日だ!)

新聞部部長
それではまず取材の練習として、新入生の皆にはサッカー部の写真を撮りに行ってもらうよ
新聞部部員
はーい
あなた

(やったー! ゲームのチュートリアル通り!)

あなた

(ここでサッカー部の攻略対象と仲良くなる写真を撮れればいいけど、まずは『青春フォトグラファー』の攻略対象がいるかが確認できたらいいな!)

私は渡されたデジカメを持って、うきうきしながら、他の新聞部の新入部員と一緒に写真を撮った。
たしかに攻略対象の男子もいるなあとニコニコして、そのまま新聞部の部室に戻る。
新聞部部長
それじゃあ、撮ってきた写真をプリントするから、デジカメをプリンターに繋げて
新聞部部員
はーい
部長に言われるがまま、私たちは順番待ちして、プリンターで写真を印刷していく。
私も意気揚々と印刷していくけれど……。
新聞部部員
ちょっと! この写真なに!?
新聞部部員
悪戯? でもさっき一緒に写真撮ってただけじゃん!
出来上がった写真を見た部員から悲鳴が上がる。
私はプリンターから出てきた写真を見る。
あなた

(なにこれ……透けている人がいっぱい見える……)

あなた

(これ……心霊写真?)

あなた

(嘘、肉眼で見えなくなったから、てっきり霊感体質はなくなったって思っていたのに……)

あなた

(まさか心霊写真しか撮れないの!?)

あなた

なんでぇぇぇぇぇぇ!?

思わず悲鳴を上げるしかなかった。

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