花火が始まって、それを俺たちは人混みから離れた所で見る。
ベストポジションで見るより幾分もしょぼいのだろうけれど、大きな火の花は俺たちの顔にも平等に光を落とす。
1時間半程のプログラムは順調に進み、ついにクライマックスまであと少しとなった。
俺たちは人の波に逆らって、待ち合わせ場所に戻る。
毎年、最後の花火はここで見て、そのあと彼女と別れるのだ。
2人で、空を見上げる。
今日1番の大きさの花火が、夜空にその花弁を開く。
チラと彼女の方を見ると、彼女の白く透明な肌が花火の光を受けて、オレンジがかっていた。
今までフワフワしていた彼女の輪郭が、急に実体を持ったように見えて、無意識に、彼女の手を握ろうとする。
俺の手は、彼女の手をすり抜け空を切る。
その気配を感じた彼女がこちらを見て、寂しそうに笑う。
「花火、終わっちゃったね。
しばらくお別れかぁ。寂しいけど、また来年」
彼女の姿が薄くなって消える。
まるで空気に溶けてしまったかのようだ。
辺りには、祭り帰りの人々の喧騒だけが残った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。