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「凛花も来れば良かったのに」
大きめの肉を思いっきり齧りながら、優菜が言う。
(祥三)「波打ち際で、靴脱いではしゃぐのとか意外とサイコーだったぜ」
(圭太)「そうそう。この時期だから、まだ水着は早いしさ」
初夏とは言え、まだ海開きの行われていないこの時期。
でもだから、海岸も意外と人がまばらで。
ちょっと穴場の場所だから、ゆったりした雰囲気で楽しめるワケだけど……
「まぁ流石にアンタたち二人ははしゃぎすぎだけどね」
優菜が心の声を代弁してくれた。
「いやいやせっかく海に来たんだから、はしゃがない方が損してるでしょ……あっもうこれ焼けてる?おっけー?」
(相変わらず圭太は軽いなぁ……)
こっちに思いっきりあらぬ方向の会話のボールを投げたまま、そんなことを意にも介さずお肉の焼き加減に夢中になる圭太を見つめて、ぼんやり私はこんがり焼けたナスを齧っていた。
「ここ、凛花の野菜ゾーン?俺も貰っていい?」
「わっ」
急に圭太に覗きこまれて、アタフタしてしまう……
「何もそんな驚かなくてもいーじゃん」
「ご、ごめん」
「で。いい?」
「う、うん」
玉葱を、速攻で掴む。
「こういう所で焼いて、外で食べると何でも美味しいよな。普段どっちかって言うと野菜食べないけどさ。やっぱ直火の力は偉大だよな」
にこり、と圭太が笑う。
つられて私も、笑った。
(うまく笑えてたかな……)
初めての、みんなでの屋外バーベキュー。
初めての、肉を食べなくなってからのみんなとのバーベキュー。
(ちょっと緊張してたけど、大丈夫そうかな……)
何気ないやりとりに、心が緩んで。
火で焼いた野菜は美味しくって。
次々にお皿にこんがり良い加減に焼けた野菜が載せられていく。
ピーマン、玉ねぎ、茄子、とうもろこし、椎茸………
「やっぱみんなで食べるって良いよね」
優菜がこっちを見て笑顔で呟いた。
「うん、そうだね」
私もその声に応えた。
「まっ誰かさんは肉食べられないけど……代わりに俺達がその分頂くってことで」
「誰かさんは無いでしょ、祥三」
「ごめん」
「そうだよ。凛花だって、そんな風に言われたら嫌だよな、凛花?」
祥三の一言、ちょっとぐさっと何かだめーじが来たけど……
優菜と圭太がかばってくれて、良かった。
一通り色々焼いて、さぁ第2弾、という頃合いになって。
「ちょっとだけ、私……海、見て来ても良いかな」
何と無く、何だか複雑な気持ちになっちゃって。そう告げて見た。
空気悪くならないかな、とか思いつつ。
でも、誰も別にそんなことはなくて。いつも通りで。
「俺もついてくよ」
と、何故か圭太が(一人で行きたかったけど)ついて来ることになった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!