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(祥三)「っひや~~来たぜ海っ」
(圭太)「よっしゃ、波打ち際まで走るか」
(優菜)「こら男子―――」
海にテンションが上がって止められない圭太と祥三を眺めつつ、私は圭太のお兄さん、司朗さんと一緒にバーベキュー用のセットを組み立てる。
「ここの海岸、バーベキューOKって素敵ですね」
セットの組み立て方を司朗さんに伺いつつも、手慣れた様子で組んでいく手さばきに何と無く関心しつつ、会話を繋ぐ。
「うん。前から大学のサークルで時々ここに来ててさ」
「そうなんですか」
「うち、なんかちっさい頃から親父がけっこうアウトドア派でさ。なんかバーベキューセットもあるし、すっかり“BBQ”要員って感じなんだよ、俺」
長身で細身の圭太と同じ遺伝子、って感じで司朗さんも背が高い。
長い指で何の躊躇いもなく全てを組み立て上げるその姿に、ちょっとだけうっとりしてしまった。
「圭太~祥三~~あんまり遠くに行くなよ~~」
と叫ぶと、早速炭をくべて火をつける。
「もう、11時回ってるし。全然焼いていって良いよね?」
にこり。ちょっぴりお洒落な眼鏡を抱えたその瞳の奥が、ちらりと無邪気に微笑んでいた。
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手際よく、トングで網に並べてくのは肉、肉、肉、お野菜、肉、肉………
「凛花ちゃん、お肉食べられなくなっちゃったんだって?」
まだ向こうの波打ち際で、戯れる2人+監視役1人を遠目に眺めつつ、私はゆっくりと首を縦に振った。
バーベキューコンロの周りには、アウトドア用の色鮮やかな折り畳み椅子が人数分並べられて。
私はそのうちの一つに腰をおろして、何と無く海辺ではしゃぐ気にもになれなくて、司朗さんと他愛の無い会話を続けていたところだった。
「はい、そうなんです……」
「それは、辛いよね」
彼なり、の配慮のつもり……なんだろうな。
胸のうちを明かせぬまま、
「はい…。まぁ、何か……人生いろいろありますよね」
と、胡麻化すのが精いっぱいだった。
「まぁ敢えて詳しい理由は聞かないけどさ。圭太が何か寂しそうにしてたよ、“凛花”が肉食わなくなったー”って」
「そうなんですか」
波打ち際に、反射する太陽光がキラキラ光ってちょっぴり綺麗で、その様子を眺めては自分に平常心、と言い聞かせながら。
「やっぱり、びっくりしますよね。これまでフツーに食べてたもの……急に食べられなくなっちゃったら」
「まぁね」
「ですよね」
「でもさ……世の中には突然アレルギーとか発症する人もいるわけじゃない?……凛花ちゃんは、焼き肉屋で体調おかしくなってから、って聞いただけだからアレルギーかどうかは知らないけど、やっぱり“身体に合わない”食材ってある人もいるしさ」
私はただ頷いて、司朗さんの話を傾聴する。
「だから、今日のバーベキューも無理しないで良いからね」
そう言って、コンロの上の網の隅の方を指した。
「ほら。これ」
司朗さんが指差す先には、そこだけ椎茸やピーマン、玉ねぎなど“野菜”が並んでいた。
「そんな凛花ちゃんのために“野菜ゾーン”作ってみた」
にこり、と白い歯を見せて笑う司朗さん。
その優しさに、不覚にもドキっとしそうになる。
「あ、ありがとうございます……!」
「良いって良いって」
ぺこ、と頭を下げた私のつむじを、くしゃりと司朗さんは軽く撫でると、
「ほんじゃ、あの馬鹿共二人を呼んで来よっか。そろそろ肉も焼けて来たし、バーベキュー始めよう」
そう言って、今度は海に向かって“石飛ばし”に勤しんでいる三人を呼びに向かっていった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!