第10話

#8 染まる、海にーフェードアウト。
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2019/02/12 13:44




ざざん、ざざん……



波打ち際を縫うみたいに歩く。



「やっぱ裸足になって歩いてみたら、きもちいいね」



とまるでその場を紛らわすみたいに、笑顔を作って圭太に話しかける。



「ほら、さっき行かなかったから。とりあえずお腹もいっぱいになったし。来てみたかったんだ……」



ぱしゃぱしゃ、とサンダルを脱いで歩く水は少しひんやりしてるけど、何だか気持ち良かった。





圭太は黙って、私の前をぼんやり歩いていたけど。

急に振り返ると、こんなことを言った。



「やっぱ、無理してない凛花?」

「えっ」



いつもは爽やかで天真爛漫な圭太の瞳が、少し曇っていた。



「そんなこと、無いよ」

喉の奥につかえてた、滓の様な“何か”を包み隠すみたいに、私は否定する。

「みんなと海に来れて、バーべーキューも一緒に出来て、嬉しいよ」



「そうかな……俺には」





その時、突然強い風が吹いた。



「!」

「凛花?!」



目の前が、突然水しぶきで覆われた。

気が付いた時には、私は波に足を取られてそのまま波に身体ごと攫われていたーーーーーーーーーーーーーーーー









ばしゃっごぼっブクブク……

水の音と、視界と。



(何で……?!)



突然のことだったから、足を崩してそのまま転んでしまって。

勢いよく波に流される。



初夏とは言え、まだ5月末の海は当たり前だけど冷たい。

寒い。息が出来ない。苦しい。



「がはっ」



ようやく水面から苦し紛れにバタついて顔を出す。

でも、いつの間にそんなに流されたのか。足が地面に届きそうで届かない。



嫌な、予感しか無い。



身体中の体温と言う体温が、一気に氷点下まで下がった様。



「凛花――――――――――――――っっ」



見れば、皆がこっちに駆け寄って来ていて。

圭太の姿が見えなくて。



でも、寒くて。

水泳なんて、大して得意でも無いから。立ち泳ぎも、必死の気持ちで何とか出来ているのか、いないのか。



(どうして。神様―――――――――――)





なんで。



あの時。







“あんな風景を私に見せたの?”





混濁する意識の中で。





“私は普通に生きたかったのに。”





とりとめようもない禅問答が。





(知りたくなかった?)





(でも知ってしまったーーーーーーーーー?)



後悔と一緒に。









お母さん、お父さん、みんな……ごめんなさい





こんなことでやさぐれて、波に飲まれるなんて。

バカだね、私……







寒すぎて、手足が……もう。





動かせない………



まだ、死にたくないのに









生きて居たかったーーーーーーーーーーーーーーーー





身体が、沈む………



「凛花!」





沈みかけた身体を、誰かが掴んだ。



温かい、声。





「まだ、死ぬなよ……」





その声を聞いた瞬間、私の意識は途切れた。



フェードアウト。







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