第25話

Restart(3)
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2021/07/28 17:00


『パシャパシャ』

何度か顔に掬った水を打ち付けて、傍らの白いタオルで顔を拭いた時だった。

ふと、洗面台真正面に張られた鏡に映った先程まで使っていたドライヤーに目が止まった。

あなた
ん?


何度か瞬きをした後、タオルから顔を出した私は昨日の記憶をもう一度ゆっくりと辿ってみる。

と、一瞬だけ脳裏に万次郎の顔が現れる。

それから声が聞こえた気がした。






『じゃさ、今度は俺の髪をあなたが乾かす番。』



『今から風呂行って来っから、部屋戻ったら俺の髪乾かして。』




あなた
……………あ、!!!!


靄がかかっていた昨夜の記憶がはっきりと蘇る。

重く感じる頭は相変わらずだが、風呂上がりの万次郎を彼の部屋で待っていたことを思い出した。

あなた
うわぁ…やっ、ちゃっ、た…
何を?
あなた
髪乾かす約束してたのに、忘れて寝ちゃった…。
じゃ、今日してよ。
あなた


声の主も分からぬまま、タオルに顔を埋めて会話をしていたが、

まさか彼だとは思わなかった。




『バッ!!!』

タオルから顔を出すと、慌てて振り返った。



そして、

その名を口走ってしまった。



あなた
万次郎?!
佐野 万次郎(マイキー)


(あっ……)


もう長いこと口にしていなかった、彼の名字。

佐野 万次郎(マイキー)
あなた
…っ、



『お前は特別だ。』


『ずっと俺の傍にいろ。俺の目の届くところに、ずっと。』




『大好き、。』




『…』


私は万次郎からその言葉を貰った瞬間、

彼を『万次郎』と呼ぶのは止めた。



なのに…


今し方、はっきりとこの口で発してしまった自分にびっくりした上に、

佐野 万次郎(マイキー)


目の前の万次郎の反応が見えなくて激しい動揺を覚える。


あなた
あ、あの、マイ___
佐野 万次郎(マイキー)
どした?


弁解しようと口を開けた私を他所に、

万次郎はにこりと笑みを作った。


どら焼きをあげた時やバイクを仲間と乗り回している時とは違う。



ただ、優しく微笑む。




(…)



そうだった。

私が万次郎と呼んでいた時は、いつもこんな風に笑いかけてくれていた。




言葉を失い、口を閉じるのも忘れて、

万次郎が笑っているのを見ていた。


久しぶりに見た、その優しい微笑みに目を離すことが出来ない。


あなた
…っ


声に乗せようとした言葉は空気と化してしまい、

口元を微かに動かしただけで終わってしまった。


その後はキュッと唇を結んだ。





佐野 万次郎(マイキー)
佐野 万次郎(マイキー)
だから、どーしたんだって。
あなた
…ぇ、ぁ…な、何でもない、よ。

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