獣が吠えた様な声が私に向かって発せられる。
バイクに跨ったまま顔を上げた彼は、長く伸びた黒髪を揺らして此方を向いていた。
今にも唸り声をあげそうな面持ちで、口元からはチャームポイントの尖った八重歯が見える。
真っ黒な特服の左袖には『卍壱番隊 隊長』の金字。
肩に掛かるぐらいまで伸びた、ストレートの黒髪。
切れ長な目、
神社で見る狛犬の如く鋭い八重歯。
力強い印象を与える目下の分厚い縁。
若干黄色を混ぜたかのような茶色の瞳をギラつかせているのは…
東京卍會 壱番隊 隊長、
───────場地 圭介。
(つーか、俺のことは『フワ』って呼べって言ってんのに…)
ずっと昔から場地だけは私を『フワ』とは呼んでくれなかった。
『せめて東卍の人間として居る時だけはそう呼んで欲しい。後は好きに呼んで構わないから。』
と、改めて話をしても、
『あぁ"? いつものお前と東卍のお前と何が違うんだよォ。』
『俺は呼ばねぇからな。』
の一点張りで、数年経った今でも一度も呼んでくれたことは無い。
(後は…)
何の執着なのか分からないが、
万次郎に何度も喧嘩を挑んでいた時と同じで、
私にも妙に喧嘩腰の態度を度々見せる時があるということ。
はぁ、と溜息を混ぜて、
愛機の GSX250Eに跨ったまま私を真正面から凄む場地に私は口を開いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。