第19話

Resemble(4)
1,339
2021/07/08 17:00
佐野 万次郎(マイキー)
ん。随分楽しそうだったね。
あなた
え。
佐野 万次郎(マイキー)
声、超聞こえた。
あなた
あー…ごめん、うるさかったね。
佐野 万次郎(マイキー)
別にー。楽しそーだなって思っただけ。
何話してた?
あなた
学校の話
佐野 万次郎(マイキー)
とか?
あなた
『とか?』?

万次郎の「とか?」という次の話題を促す、まさかの返しに私は慌てて記憶を巡らす。
あなた
えっと、東卍の話…とか。
佐野 万次郎(マイキー)
他には?
あなた
他…他…他……あ、タオルの話、とか。


(いや、ちょっと待て。万次郎相手にタオルの話は良くないんじゃない?)

佐野 万次郎(マイキー)
あー、エマがいつも言ってるやつか。
タオル巻いて入ってくる、って。


(なんだ、知ってたんだ。)


一瞬、とんでもない会話を始めてしまうのではないか、と危惧したが、どうやらそんな心配や焦りは要らなかったらしい。

…いや、私のお風呂事情を万次郎が知っているのもどうかと思うが………。


果たして手放しで良かったと喜んでいいものか、微妙なところではあるが、

L字ソファに座ったままの万次郎の背に、今度は私が話の舵をとる。
あなた
じゃ、私もう行くね。
佐野 万次郎(マイキー)
あなた
佐野 万次郎(マイキー)
それだけ?
あなた
『それだけ』って?
佐野 万次郎(マイキー)
いや、風呂のこと言いに来ただけ?
あなた
うん。
お風呂、次どうぞって言いたかっただけ。
佐野 万次郎(マイキー)
こっち来ねぇの?
あなた
うん。
佐野 万次郎(マイキー)
…どら焼きあるよ?
あなた
ぷっ、どら焼きって…マイキーじゃないから釣られないよ。
佐野 万次郎(マイキー)
へー、あっそ。じゃ、そこのケースから俺にどら焼き1個持って来て。
あなた
はいはい。

右壁に沿って置かれた棚の上段からケースを両手で下ろすと、万次郎の指示通りにどら焼きを1個取り出して元に戻す。

私が部屋に敷かれた夏用の薄いカーペットの上を歩いていくと、万次郎はにっこり笑って私からどら焼きを受け取る。
佐野 万次郎(マイキー)
ありがと♡
あなた
今日はもう食べたのに。
佐野 万次郎(マイキー)
別に良いじゃん、何個食べたって!
どら焼きが美味いのが悪い!!

頬を膨らまして少し怒っている万次郎に、私は既視感を覚えた。

そして、その正体に気づくまでそう時間は掛からなかった。


(ふふっ、似てる。エマちゃんのちょっと怒った時の顔と超似てる。)




『もー!』




湯船に浸かりながら2人で大爆笑した先刻のエマちゃんを思い出す。

少し前までは目の前の万次郎と同じ、ぷくーっと頬を膨らまして、目を細くして…怒りの顔していたのだが。



(やっぱ兄妹なんだなぁ。)



エマちゃんは私が笑うと、途端に笑顔になってくれる。


それは今、

目の前にいる万次郎と何も変わらないことで。





やはり彼女は笑顔が似合う。



私の憧れの女の子だ。



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