『ブルルルル…』
堤防近くの大通りまで走って出て来ると、ベストタイミングで万次郎がバイクに乗ってやって来た。
肩に着くか着かないかまで伸びた金髪、
額を出すよう、ハーフアップの様に後ろに纏められた前髪。
鎖骨と共に白いタンクトップが顔を見せた、緩く大きな襟口が特徴の黒いTシャツ。
黒いTシャツの裾から出された白のタンクトップ。
膝丈の黒い半ズボン。
そしてお馴染みの草履。
私の前に約2週間ぶりに姿を現した " 佐野 万次郎 " という名の東卍の総長は、
私が見ない間にすっかり夏本番前の格好になっていた。
万次郎はバイクに跨ったまま片足を地面につけて、首を傾げる。
万次郎はそっぽを向いて、返事をする。
それから唇をつんと尖らせた。
(あ、これ拗ねてる時とか気に入らない時に出る癖だ。)
そう伝えると、万次郎の顔はいつもの表情に少し戻った。
けど、完全にいつもの感じに戻った訳じゃないみたいだ。
(本当にどしたんだろ?)
「お邪魔します」と一言置いてから、万次郎の後ろの座席に跨った。
しっかりお尻を乗せて、万次郎の腰に腕をまわす。
『バンバンバブーーーン』
この特殊なエンジン音から、
万次郎のバイク " CB250T " は " バブ " と呼ばれる様になった。
バイクに乗った分、いつもの私の背丈よりも高くなったお陰で、頬で早く流れる風を感じる。
しかし、直接風が私にぶつかる事はなく、
大概はバブを運転する万次郎が風避けになってくれていた。
気がつけば、万次郎は同じぐらいだった身長の私を置いて、背が高くなっていた。
万次郎の匂いを乗せた風は私の鼻を掠める。
この席に座りたいと思ってる奴らがいっぱい居る事を私は知っている。
そもそも総長に運転させるとは何事だ、と思う奴もいるだろう。
それは私も思う。
今や渋谷を治める暴走族『 東 京 卍 會』、
略して『東卍』は、
総長『無敵のマイキー』と副総長のドラケンを筆頭に、
壱、弐、参、肆、伍の5つの組織が下についている。
1つの隊に約20人。
よって、新しく出来た暴走族とはいえ、今の東卍には100人のメンバーが居ることになる。
少なくとも、この半分は私の事を気に入っていない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!