泣き虫くんから借りたガラケーを開くと、すぐさまアドレス帳を開く。
『ポチポチ、ポチポチ…』
" た " 行の1番下まで下矢印のボタンを何度も押して、漸くお目当ての連絡先を見つけた。
(アドレス帳に『君』付けって。泣き虫くんは真面目なんだなぁ。)
『ポチッ…プ、プ、プ…プルルルル…プルルルル…』
携帯を耳に当てながら、叢の上に下ろしたサッチェルバッグを持ち上げて、肩紐に腕を通す。
『プルルルル…プルルルル…』
(うーん、出ないか。)
スピーカーの奥で呼び出し音が鳴り続けるだけの様子に、
私が諦めようと耳を少し離した時だった。
『ガチャッ』
そうだろうなとは思っていたが、
あの " 泣き虫くん " が恐らくドラケンの指す『タケミっち』なのだろう、と悟る。
『ゴトゴトッ』
ドラケンの会話が途切れ、少し大きな物音が聞こえた。
物音が聞こえた後、
電話の向こう側で聞こえた声はドラケンとは違う声だった。
だけど、
聞き慣れた東卍の総長の声。
いつもより頑なに迎えに来ようとする万次郎に、私は目をぱちくりさせた。
(どしたんだろ。なんか余裕の無い声。)
「分かった」と一言返事をすれば、プツリと電話は切れた。
『パタン、』と泣き虫くんの携帯を閉じれば、Uターンして泣き虫くんとその仲間たちの所に向かう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!