前の話
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「___紗良」
低くて甘い声。彼の吐息。
「……可愛い」
彼の体温。彼の熱。
「好きだよ」
甘い言葉。彼の笑顔。
そんな上辺だけのものに振り回されていたのは、私だけ。
分かったつもりでいた。
分かっていなかった。
私は所詮、彼にとって都合のいい玩具でしか
なかったことを。
私の父は暴力をする人だった。
幼い頃に両親は離婚していて、私は父に引き取られた。
しかし、度重なる虐待によって、私は母のもとに行かざるを得なくなってしまった。
父が手をあげだしたのは私が中学に入った頃。
当時は頼れる人もおらず、日に日に孤独と虚無感だけが重なっていった。
学校でも交友関係がうまくいかず、部活にも顔を出さない日が増えていった。
そんな私の唯一の楽しみは、地域で週2回行われている卓球に参加することだった。
私は卓球部だったのだが、部活のメンバーもいない、知り合いばかりの安心出来る空間だった。
そこで大地と再会した。
大地は3歳上で、幼馴染みのようなものだった。といっても小学校が同じだったのだが3年間しかかぶっていなかったので、中学に上がるまでの3年間一度も会わなかった。
久しぶりに再会した大地はすっかり大人びて、高校生らしくなっていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。