「もう、なにがそんなにおもしろいのっ!?」
純子から離れて、ちょっとすねた口調で言った。
私にもわかるようにちゃんと話してよ!
「だってさあ、普通ケータイの機種なんか、あんなふうに聞かないでしょ!あれはね、メアド聞いてたの、メアド!」
涼がもうガマンできないというように大笑いした。
な、なんか、バカにされてる?
みんなも笑ってるし~…。
ひとしきり笑ったあと、涼はにっこり微笑んだ。
それはもう、見とれちゃうくらい可愛くね。
「まあ、自信を持てとは言わないけど。そんなに自分を下に見なくてもいいってことよ?」
「千夏もそう思う~っ。だからね、今まで通りでもいいかもだけど、もしこれから先輩と関わるようなことがあったら、無理に関わるのをやめようとしなくてもいいんじゃないかな?」
「つまり、自分の気持ちに正直になれ、ということだ」
みんな口々に、励ますような、優しい言葉を紡いだ。
私、がんばってもいいのかな?
好きでいて、いいんだよね……?
「うん……!そうだよねっ。みんな、ありがと!」
相談に乗ってもらえて、心も軽くなった。
それに、どうしたいかも心に決まった。
私は感謝の意味を込めて、最大級の笑顔を見せた。
「ああ~、やっぱあんた、かわいいわ。いろいろとがんばれ、いろいろと!」
「うふふっ。千夏、亜希のこと応援するよお~!」
「佐伯とかいう男に渡すのはもったいないな。私が亜希をもらいたい」
なんか、よくわからないけれど、みんな応援してくれるらしい。
ほんっとうにいい友達を持ったね、私!
「あ、でも。とりあえず今は現状維持、かな。もし関わることがあったら頑張るけど」
ほんというと、もう関わることなんかないんじゃないかって思う。
だって、ケータイのことも偶然だし。
1年近く見てきた今日まで、話したのだってこの前の1回だけだもん。
まあ、この先なにが起こるかは、わからないんだけど。
「とりあえず、うちらは見守ってるわ!なんかあったら話してよ?女子にいじめられたりしたら、ぶっ潰すし!」
涼の口からなにやら物騒な言葉が聞こえたけど。
私のことを思ってくれてるんだよね。
「話を聞いた限りでは、亜希は先輩とやらと普通に話せてたようだし、大丈夫だろう」
そうなんだよね。
いざ喋ってみると、緊張したけど意外と普通に対応できてたんだ。
ああやって喋るまでは、姿を見られるのも恥ずかしいなんて思ってたのに、不思議だ。
「なんだか、なにか起こりそうな予感がするぅ~!!」
きゃいきゃいと騒ぐ、賑やかな資料室の中。
千夏が楽しそうにつぶやいたこの言葉が、まさか現実になるなんて、この時の私はまだ知らなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!