第8話

第1章
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2018/09/24 07:59
「えぇ!? 逃げてきた!?」

私と涼しかいない放課後の教室で、今日の昼休みにあったことを話したら、大声で叫ばれた。

千夏はソフトテニス部、純子は美術部に入っているから、放課後は涼と2人でいることが多い。

「バカでしょ!知り合うチャンスだったのに」

そう言われて、ちょっと落ち込む。

私だってそう思ったんだけど、いきなりすぎてどうしていいか分からんなかったんだもん。

「しかも、ケータイ置いてくるとか。ほんとバカ」

そうなのだ。

涼の言う通り本当にバカで、ギャラリーに携帯を落としたまま、走って逃げてきちゃったんだよね。

「うぅ……。バカでもなんでもいいから、取りに行くのついてきてよー!」

半泣きで涼に言うけど、相手にしてくれなかった。

放課後、南体は昼休みと同じくバスケ部が使っていて、おまけにギャラリーは卓球部が使っている。

だから、部活が終わる18時半までは、部外者らあんまり入っちゃいけないことになっている。

さすがにケータイを取りに行くだけで部活の時間にお邪魔できないからなあ…

「部活が終わるまで待っててあげるだけでも感謝しなさい。でも!取りに行くのは一緒に行かないからね!」

今は5月で暗くなるのは遅いけど、やっぱり18時半にもなれば薄暗いし、涼には悪いことしちゃったなあと思う。

「わかったよー…。あー、だけど気まずいなあ」

先輩が私の顔を覚えているかなんて、いらない心配なのかもしれないけど、もし顔覚えられてたとしたら絶対 “ドジな子” か “ヘンな子” って認識されてるだろうなあ。

「まあ、大丈夫だって。先輩たちもそんな気にしてないと思うよ?」

涼は椅子に座ってる私の背中を軽く叩いて、笑いながら言った。

他人事だと思って、そんなに深く考えてないのが丸わかりだ。

まあ、過ぎたことは今さらどうにもならないんだけどね。

「もうこうなったら仕方ないよね!ちょっと怖いけど、体育館に人がいなくなった頃に取りに行くよ。・・・ひとりで」

じろりと涼を恨めしそうに見てそう行ってみると、案の定、ギロリと10倍くらいの威力で睨み返されたのは言うまでもない。

「とりあえず、その話は置いといて…」

涼のその言葉で、いつも通りくだらない話が始まった。

昨日見たドラマの話とか、あの新発売のお菓子が美味しいとか。

こういう話をするのはもちろん楽しいんだけど、こんなにあっさり私の話を流されるとちょっと複雑な気分。

涼にとってはどうでもいいことなのかもしれないけど、私にとっては一大事なんだからね!

「でさ〜、2組の・・・」

と、涼が言いかけたのと同時に、教室のドアが勢いよく開いた。

喋るのに夢中になってたから、足音も全然聞こえなかった。

いきなりのことに驚いて、お互いに黙ってドアの方を見た。

「あ?ここ、2年1組の教室だよな?」

どこか聞き覚えのある声がして、その人の顔を見て驚いた。

だって、その人は、中原先輩だったから。


「ちょ、なんで中原先輩!? 亜希、先輩なんか言ってるよ!?答えてあげなよ!!」

小さい声で焦ったように私にそう促す涼は、昼休みの時の私以上にパニックになっているみたいで少し笑えた。

そんな涼を見て、なんだか余裕が生まれてきちゃったわけで。


「あ、ハイ、そうですケド……。中原先輩、なにか御用デスカ?」

なんて、ちょっとカタコトだったけど、言葉を発することが出来た。

私が言うと、中原先輩は私が座っていた窓際の1番後ろの席まで歩いてやってきた。

「ああ、なんだ、お前残ってたのか。コレ、お前んだよな?」

仏頂面で差し出されたのは、まぎれもなく私がギャラリーで落としたケータイだった。

「え、もしかしてこれ、わざわざ届けに来てくれたんですか……?」

私が聞くと、少し照れくさそうに「おう」とだけ言った。

中原先輩って笑顔はかわいいけど、ずっと怖い人かと思ってたんだよね。

だけど、こうして親切にケータイを届けてくれるってことは、そんなに悪い人じゃないのかな?

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