第3話

第1章
204
2018/09/22 11:54
実は、私が先輩を気になり始めたのは、バスケの試合を見た訳では無い。

あれは去年の6月、ちょうど梅雨の時期で、雨がしとしと降っていた日のことだった。

先生から雑用を頼まれ帰るのが遅くなったせいか、校舎には部活をしている生徒以外は残っていなかったみたいで。

いざというときのために、教室の傘の置き場に透明のビニール傘を置いていたけど、そこには1本も傘がなかった。

多分、傘を忘れた人が持っていったんだと思う。

仕方ないから走って駅まで行こうと玄関を出た時、学校の前にある小さな噴水のそばに誰かが立っているのがみえた。

身長が高くて、髪が短い男の人だった。

傘もささずに雨に濡れているその人は、1年生の間で噂になっている佐伯先輩だと気付いた。

そして、私が気付いたのはもう1つ。

・・・佐伯先輩は、泣いているように見えた。

その姿は今にも消えそうなくらい儚げで目が離せなくて、しばらく玄関で立ち尽くしてしまった。

だけど、どうして傘をさしてないのかな、とか、なんで泣いているんだろうって思いながらぼーっと見ているうちに、気付いたら先輩はいなくなっていた。

もしかしたら、雨で泣いているように見えただけかもしれないけど。

それでも、泣いていたんだろうなって確信めいたものが心の中にあって。

クールであまり笑わない、王子様みたいな先輩が泣いているのを目撃してしまった日から、気付いたら目で追って、気になる存在になっていた。

それから、昼休みにバスケの試合を興味本位で見て、笑顔を見た瞬間恋に落ちた。

・・・それに、なんでかな。

先輩の後ろ姿を見ると、どこか懐かしく感じて、それも心に引っかかっている。

そして、今に至るというわけなんだけど。

先輩を好きになってから、毎日飽きもせずに試合を見に行く。

そんな私を涼達は1年の時から見ていたから、私がただのミーハーじゃなく本気ってことはわかってくれてるんだ。

先輩をすきになったきっかけは、まだ涼にさえも話していない。

好きだから付き合いたいって思うこともあるけれど、今はこうやって先輩の姿を見るだけで十分で。

それに佐伯先輩は浮いた噂が今までひとつもなくて、涼の情報によると告白とかも全部断ってるらしい。

女子には冷たいらしいし、そういうことを聞いちゃうと告白なんかできないなぁと思う。

だから今はほんとにこのままでいいかな。

先輩の卒業式には、告白する勇気がありますように…

なんて思いながら、バスケをする先輩を見ていた。

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