「あの、ありがとうございました!でも、よく私のクラスわかりましたね?」
なんで私のクラスがわかったのか、不思議に思ってきいてみる。
すると、顔を赤く染めた中原先輩は
「いや、なんつーか、まあ、うん」
と、なんとも歯切れの悪い返事をした。
そして、なぜか中原先輩はうめき声をあげてその場にしゃがみこんでしまった。
そのあとは、とにかく沈黙。
どうしたらいいのかわからなくて、今まで放心状態だった涼に視線で助けを求めた。
そんな私に気付いた涼は、思いもよらない行動に出た。
「ごめん!用事思い出した。帰る!」
「え!?」
あとはまかせたって顔で、涼はダッシュで教室を出ていった。
え、えぇー。なんでー!
なぜか、中原先輩とふたりきりになってしまった。
こ、これ、どうしたらいいんだろ……
気付いたら18時半を過ぎていて、部活の生徒も帰り始める時間だ。
どうしようかな、なんて焦ってたら中原先輩がぼそっとつぶやいた。
「あいつ、意外と気が利くな…」
よいしょと立ち上がって伸びをする中原先輩の頬はもう赤みがかかってない。
具合悪いのかなって心配してたからホッとした。
立ち上がった先輩を見上げていたら目が合って、中原先輩の顔がなぜかまた赤くなった。
不思議に思って、首を傾げて見つめていると、どんどん赤くなる先輩の顔。
そのままどれくらい時間がたったのかわからないけど、教室の入り口の方から、低くてどこか甘い、私のよく知る声が聞こえた。
「慶、何してんだ?帰るぞ」
教室に顔を覗かせた人物は、まさしく佐伯先輩だった。
髪の毛の先が少し濡れていて、今まで部活で走り回ってたんだろうなってことがわかった。
佐伯先輩は、顔を真っ赤にして何も言わずにいる中原先輩と私の姿を見て、なにがあったか悟ったように目を細め、私達の方へ歩み寄ってきた。
そんな姿もかっこいい……なんて思ってる場合じゃなくて。
「あ、の。お昼休みはすみません!さっき中原先輩にケータイ届けてもらって。ありがとうございました!」
緊張したし、噛んだけど一応言えた!
初めてしゃべるのがこんなことだし、最初の印象も最悪だろうけど!
ビクビクしながらだけど、勢いよく頭を下げた。
・・・でも、ちょっと待って?
なんで佐伯先輩も私のクラス知ってるんだろう?
「つかぬことをお聞きしますが、なんで先輩たちは私のクラスを知っているんでしょうか?」
もしかしたら中原先輩が誰かに私のクラスを聞いて佐伯先輩に教えたとか?
え、でも、先輩たちは私の名前なんか知らないはずだし、聞き用がないよね?
いろんな考えを巡らせながら、恐る恐る顔を上げると、そこには目を見開いてびっくりしている2つの顔があった。
「あの、なんでそんなに驚いているんですか?」
なんか変なことを言っちゃったかと心配になって、思わず目に涙が浮かんでくる。
泣きそうになっている私を見て、中原先輩はオロオロし始めた。
そんな中、口を開いたのは、まさかの佐伯先輩だった。
「そんな泣きそうな顔すんなって。今さらなんだけど、宮下さん、だよな?」
お決まりのポーカーフェイスで、私の顔をのぞき込むようにして言う先輩の声はどこか困ったように聞こえ、出かかっていた涙も引っ込んでしまった。
それに、涙で視界がゆがんでいたからわからなかったけど、私の顔のすぐ近くに佐伯先輩の顔があって、ありえないくらいの至近距離に、今度は顔がだんだわ熱くなってくる。
それに、女子に冷たいって聞いてたから、私なんかとは喋ってくれないと思ってた。
普通に喋ってくれて嬉しすぎる…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!