# 友達と秘密の相談
次の朝。
眠い目をこすりながら、ひどい寝癖がついた髪の毛と格闘して、ぎりぎりの時間に教室に飛び込んだ。
「ま、間に合ったあ…」
浅のホームルームは出られなかったけどね。
本当は立派な遅刻だ。
窓ぎわの1番後ろっていう、最高ポジションに位置する自分の席についたのら、ちょうど授業開始のチャイムが鳴ったのと同時だった。
走って乱れた息を整えながら、英語の教科書をカバンから取り出す。
・・・なんか、視線を感じるんですけど。
私のふたつ前の右隣の席、つまり、涼から。
『ケ・イ・タ・イ・ミ・ロ』
口パクで自分のケータイをゆびさしながら、私の方を睨んでる。
え、怖い。
怖いんだけど…?
そう思いながらもケータイを取り出そうとしたら、りんちゃんが教室に入ってきた。
「りんちゃん」っていうのは、私のクラス担任でバスケ部顧問の林先生の愛称だ。
ちゃん付けで呼んでるけど、正真正銘、男の先生。
26歳と若くて気さくだし、何よりかっこいい。
彫りが深くて、濃いめの顔なんだけどね。
熱心に話も聞いてくれて、人気の先生なんだ。
意外にも、りんちゃんは英語の先輩だったりする。
「んじゃ、教科書この前の続きからなー」
日直が号令をかけたあと、りんちゃんのその言葉で授業が始まった。
私はその目を盗んで、ポケットに入っていたケータイをこっそり取り出した。
バレないようにケータイを開くと、新着LINE、電話の嵐。
それらは涼、千夏、純子からだった。
『亜希、まだ学校来ないの? 寝坊?』
『涼が心配してるよお〜! 気付いたら連絡してね!』
『亜希、死んでるのか?』
・・・などなど。
昨日の夜、私が意味わかんないLINEを送ったから、心配したんだろうな。
それに私、普段遅刻なんてしないし。
こんなに心配されてたんだと思ったら嬉しくなって、心がぽかぽかしてきた。
LINEを見終わって涼たちの方に目を向けたら、涼も、千夏も、純子も、私のことを優しい目で見つめていて。
いい友達だなあ、なんて、心から思った。
「はい、宮下さん。ニヤニヤしてないで授業ちゃんと聞いてくださいね?ケータイをちゃんとしまってね」
幸せな気分に浸っていた私を現実世界に引き戻したのは、いつの間にか目の前に立っていたりんちゃんだった。
しかも、いつもと違って喋り方もイヤにきれいで、静かに怒っているんだってわかった。
うえ〜、りんちゃん怖いよー……。
だって、口は笑ってるのに目は全然笑ってないんだもん。
これは、遅刻のことも合わせてお怒りと見た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。