第17話

第2章
72
2018/10/28 02:09
集中して臨んだ授業の時間は早く感じて、待ちに待った放課後になった。

第一資料室っていう、今は空き教室になっている場所に移動して、秘密の作戦会議だ。

机に椅子もあるし、なにより人が全然来ないから、内緒話をするのにうってつけなんだよね。

「亜希、早速だけど昨日のこと話してよっ!」

それぞれ椅子に座ると、興味津々なのかみんなが目を輝かせて私を見てくる。

そんなに期待されると、なんだか話しにくいけど…

「えっとね~……」

昨日のことを思い出しながらポツポツと話していく。

ケータイを落としたこと。

それを中原先輩が届けてくれたこと。

そのあとになぜか佐伯先輩も登場して、一緒に帰ったこと。

それから、アドレスを交換したこと。

一通り話し終わると、みんなはさっきよりも目をキラキラと輝かせていた。

「なにその展開!? おいしすぎるでしょー!!」

「だよねだよねっ! 学校の王子様ふたりと話せるなんて、レア中のレアだよねえっ」

「亜希、運がよかったんだな」

なんて、キャーキャー騒ぎ出した。

でも、私がギャラリーから佐伯先輩を見てることを、本人が知ってたことは、言わないでおくことにした。

なんとなくね。

あと、私を差し置いて楽しむのもいいんだけど、相談があるんだよね。

「ねえ、あのさ? 今まで私、見てるだけでいいって言ってたじゃん?」

私が話し始めると、耳を傾けて聞いてくれたので、そのまま話を続ける。

「あの、それでね? 初めて喋って近づけば、見てるだけじゃガマンできないかも、なんて思って。どうしたらいいと思う?」

恐る恐る聞くと、涼たちは顔を見合わせた。

そのあと私を見て、手を握りしめてきた。

やけにイキイキとした表情で。

「どうしたらいいって、決まってるじゃん! アタックしちゃいなよ!アピールアピールっ」

「え、ええっ。、本気で言ってる?」

「涼は本気で言ってるぞ。ちなみに私もそれがいいと思う。そして、告白してしまえ」

「え、えぇ?!」

どうしたらいいんだろう…。

その時、黙っていた千夏が突然顔をあげた。

「あのね、亜希。涼と純子が言うみたいに、アピって告白した方がいいと思うよお?好きって気持ちをガマンする必要はないんだから」

千夏はここで1回言葉を区切って、持ってきていたお茶を1口飲んだあと、また続けて言った。

「だけど、相手は学校1を争うモテ男だからねえ?亜希は女子たちのひがみとかが怖いって言ってたよね?これ見よがしにアピったりとかしたら、絶対目をつけられちゃうんじゃない?だから、簡単にはいかないよねえ」

普段は甘えた妹キャラなのに、言ってることはかなりしっかりしてた。

恋愛経験の豊富さは、ダテじゃないな。

千夏の言葉に、涼も純子も納得しているようだった。

「じゃあ、どうすればいいの~」

答えが見つからなくて、だんだん涙目になってしまう。

すがるように皆を見たけど、難しい顔をしたまま黙りこくっている。

そんな空気を断ち切るように、純子が神妙な面持ちで切り出した。

「ところで亜希。実は今まで地味に気になっていたんだが」

「ん?なーに?」

「亜希が今まで先輩とやらにアピールしなかったのは、女子のいじめが怖い、というのだけが理由か?」

そう言われて、ちょっとだけドキッとした。

たしかに、女子の嫉妬は怖い。

そこから陰湿ないじめにだって、いくらでもつながる。

でも、私が先輩に近づく勇気がない1番の理由は、そんなことじゃない。

「どうなんだ?」

優しい声色で純子が聞いた。

うん、なんか、今なら言える気がする。

「あのね、私。本当はずっと自信がなくて。先輩のこと好きな子がたくさんいるのは知ってるけど、その子達みんな可愛い子ばっかりだから…」

ここまで言って、声が詰まってしまう。

今まで、何かと理由をつけて誤魔化してきたんだ。

「私、みんなみたいにかわいくないしっ!こんな私がいくら先輩にアピールしても、見向きもされないと思うの!」

話しかけても、何も答えてくれなかったら。

無視されたら。

好きな人にそんな態度をとられるのは、すごく辛いから。

現に私は何度も耳にしてる。

佐伯先輩を好きな人がアピールして、告白した、その末路を。

取り合ってもらえない、って泣いた女の子が何人もいることを。

「だから私、自分に自信が持てなくて、怖いんだ…」

みんなに初めていう、本音だった。

知らない間に涙が頬を伝って、それが地面に落ちていく。

そんな私をみていたみんなは、口をそろえて言った。

「「え?」」

涙をふいてみんなの顔を凝視すると、ポカーンとした顔をしている。

「無自覚って怖いわ……」

って、涼がため息混じりに呟いた。

「ねえ、亜希~?うちらが言っても信じないと思うけど、亜希はお世辞抜きでかわいいよお?」

「ね?」と涼と純子の同意を求めた千夏は、かわいらしい笑みを浮べた。

いや、純子も涼も頷いているけど、きっと慰めだよね?

私を元気づけるために言ってるんだよね?

涼は口に手を当てて、わざとらしくゴホンと咳をした。

「ね、亜希。あんたについて流れてる噂、知ってる?」

あ、そういえば。中原先輩もそれで私を知ってるんだって言ってたんだっけ?

……なに?涼達も知ってるくらい、そんな悪い噂流れてるの?

「うぅ、知らないけど。そんな嫌な噂流れてるなら聞きたくないっ」

思わず耳を塞いで、みんなの声が聞こえないようにした。

って言っても実際は聞こえるんだけどね。

「あのね?知ってると思ってたから今まで言わなかったけど、かなりモテてるみたいよ?」

耳にあった手を優しくどけながら、涼が言った。

え、意味がわからないんだけど。

「涼、そんなにモテるんだ…」

たしかに涼は黒髪のきれいなロングヘアーに、パーツの揃った顔立ちで、いわゆる美人。

モテるのもよく分かる。

「なんで亜希の話してるのに、そうなるわけ!? ……まあ、この際だから言うけど、多分中原先輩が言ってた噂って、うちらのことも含まれてるだろうし」

涼は呆れたような顔をして、ふっと短く息を吐いた。

それをきょとんと見つめてしまう。

涙はいつの間にか乾いていた。

それにしても、涼たちも含まれてるって、どういうこと?

すると、千夏が「はいはーいっ、千夏が教えたげる~っ」と手をあげて話し出した。

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