集中して臨んだ授業の時間は早く感じて、待ちに待った放課後になった。
第一資料室っていう、今は空き教室になっている場所に移動して、秘密の作戦会議だ。
机に椅子もあるし、なにより人が全然来ないから、内緒話をするのにうってつけなんだよね。
「亜希、早速だけど昨日のこと話してよっ!」
それぞれ椅子に座ると、興味津々なのかみんなが目を輝かせて私を見てくる。
そんなに期待されると、なんだか話しにくいけど…
「えっとね~……」
昨日のことを思い出しながらポツポツと話していく。
ケータイを落としたこと。
それを中原先輩が届けてくれたこと。
そのあとになぜか佐伯先輩も登場して、一緒に帰ったこと。
それから、アドレスを交換したこと。
一通り話し終わると、みんなはさっきよりも目をキラキラと輝かせていた。
「なにその展開!? おいしすぎるでしょー!!」
「だよねだよねっ! 学校の王子様ふたりと話せるなんて、レア中のレアだよねえっ」
「亜希、運がよかったんだな」
なんて、キャーキャー騒ぎ出した。
でも、私がギャラリーから佐伯先輩を見てることを、本人が知ってたことは、言わないでおくことにした。
なんとなくね。
あと、私を差し置いて楽しむのもいいんだけど、相談があるんだよね。
「ねえ、あのさ? 今まで私、見てるだけでいいって言ってたじゃん?」
私が話し始めると、耳を傾けて聞いてくれたので、そのまま話を続ける。
「あの、それでね? 初めて喋って近づけば、見てるだけじゃガマンできないかも、なんて思って。どうしたらいいと思う?」
恐る恐る聞くと、涼たちは顔を見合わせた。
そのあと私を見て、手を握りしめてきた。
やけにイキイキとした表情で。
「どうしたらいいって、決まってるじゃん! アタックしちゃいなよ!アピールアピールっ」
「え、ええっ。、本気で言ってる?」
「涼は本気で言ってるぞ。ちなみに私もそれがいいと思う。そして、告白してしまえ」
「え、えぇ?!」
どうしたらいいんだろう…。
その時、黙っていた千夏が突然顔をあげた。
「あのね、亜希。涼と純子が言うみたいに、アピって告白した方がいいと思うよお?好きって気持ちをガマンする必要はないんだから」
千夏はここで1回言葉を区切って、持ってきていたお茶を1口飲んだあと、また続けて言った。
「だけど、相手は学校1を争うモテ男だからねえ?亜希は女子たちのひがみとかが怖いって言ってたよね?これ見よがしにアピったりとかしたら、絶対目をつけられちゃうんじゃない?だから、簡単にはいかないよねえ」
普段は甘えた妹キャラなのに、言ってることはかなりしっかりしてた。
恋愛経験の豊富さは、ダテじゃないな。
千夏の言葉に、涼も純子も納得しているようだった。
「じゃあ、どうすればいいの~」
答えが見つからなくて、だんだん涙目になってしまう。
すがるように皆を見たけど、難しい顔をしたまま黙りこくっている。
そんな空気を断ち切るように、純子が神妙な面持ちで切り出した。
「ところで亜希。実は今まで地味に気になっていたんだが」
「ん?なーに?」
「亜希が今まで先輩とやらにアピールしなかったのは、女子のいじめが怖い、というのだけが理由か?」
そう言われて、ちょっとだけドキッとした。
たしかに、女子の嫉妬は怖い。
そこから陰湿ないじめにだって、いくらでもつながる。
でも、私が先輩に近づく勇気がない1番の理由は、そんなことじゃない。
「どうなんだ?」
優しい声色で純子が聞いた。
うん、なんか、今なら言える気がする。
「あのね、私。本当はずっと自信がなくて。先輩のこと好きな子がたくさんいるのは知ってるけど、その子達みんな可愛い子ばっかりだから…」
ここまで言って、声が詰まってしまう。
今まで、何かと理由をつけて誤魔化してきたんだ。
「私、みんなみたいにかわいくないしっ!こんな私がいくら先輩にアピールしても、見向きもされないと思うの!」
話しかけても、何も答えてくれなかったら。
無視されたら。
好きな人にそんな態度をとられるのは、すごく辛いから。
現に私は何度も耳にしてる。
佐伯先輩を好きな人がアピールして、告白した、その末路を。
取り合ってもらえない、って泣いた女の子が何人もいることを。
「だから私、自分に自信が持てなくて、怖いんだ…」
みんなに初めていう、本音だった。
知らない間に涙が頬を伝って、それが地面に落ちていく。
そんな私をみていたみんなは、口をそろえて言った。
「「え?」」
涙をふいてみんなの顔を凝視すると、ポカーンとした顔をしている。
「無自覚って怖いわ……」
って、涼がため息混じりに呟いた。
「ねえ、亜希~?うちらが言っても信じないと思うけど、亜希はお世辞抜きでかわいいよお?」
「ね?」と涼と純子の同意を求めた千夏は、かわいらしい笑みを浮べた。
いや、純子も涼も頷いているけど、きっと慰めだよね?
私を元気づけるために言ってるんだよね?
涼は口に手を当てて、わざとらしくゴホンと咳をした。
「ね、亜希。あんたについて流れてる噂、知ってる?」
あ、そういえば。中原先輩もそれで私を知ってるんだって言ってたんだっけ?
……なに?涼達も知ってるくらい、そんな悪い噂流れてるの?
「うぅ、知らないけど。そんな嫌な噂流れてるなら聞きたくないっ」
思わず耳を塞いで、みんなの声が聞こえないようにした。
って言っても実際は聞こえるんだけどね。
「あのね?知ってると思ってたから今まで言わなかったけど、かなりモテてるみたいよ?」
耳にあった手を優しくどけながら、涼が言った。
え、意味がわからないんだけど。
「涼、そんなにモテるんだ…」
たしかに涼は黒髪のきれいなロングヘアーに、パーツの揃った顔立ちで、いわゆる美人。
モテるのもよく分かる。
「なんで亜希の話してるのに、そうなるわけ!? ……まあ、この際だから言うけど、多分中原先輩が言ってた噂って、うちらのことも含まれてるだろうし」
涼は呆れたような顔をして、ふっと短く息を吐いた。
それをきょとんと見つめてしまう。
涙はいつの間にか乾いていた。
それにしても、涼たちも含まれてるって、どういうこと?
すると、千夏が「はいはーいっ、千夏が教えたげる~っ」と手をあげて話し出した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。