もうあの時のことを思い出したくないのに、考えたくもないのに、過去の傷を拙い言葉で抉ってくる。
そう言うと部屋から出ていった。
こんな時でさえ一滴も出ない涙に怒りすら覚えた。
やり場のない思いが自分の中に蓄積されていく。
気持ちを切り替えて皆のところに戻った。
もし上司に抱かれていることが市川くんにバレたら。
市川くんの優しい目が、汚いものを見るような白い目に変わるだろう。メンバーよりも鋭利な言葉で深い傷をつけてくるかもしれない。
そんな事市川くんはしないという確信がない。
市川くんのことを疑いたくなんかないのに。
市川くんの手が顔に近づいてきた。
抱いている時に顔を触ってくる上司が脳裏に浮かんだ。
咄嗟に手から顔を背けてしまった。
上司のことを思い出すだけで吐き気を及ぼす。
頭の中で浮かぶ気持ち悪い笑顔に身体が拒否反応を起こしている。
言われた通り、プロデューサーに伝えに行った。
多めに持ってきていた手荷物をまとめた。
プロデューサーの口から発せられる言葉を信じれなかった。
頼りない足取りで長い階段を下りた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。