歓声って、不思議だ。
あんなにも大きくて、
あんなにも温かくて、
人を簡単に“特別”にしてしまう。
ステージの上に立てば、
ライトが当たって、
名前を呼ばれて、
拍手が降り注ぐ
まるで、全部が肯定されてるみたいで
__でも
その裏側を、私は知ってしまった。
初めて見たのは、あの日のライブのあとだった。
誰もいない舞台袖で、
まだ残る熱と、消えかけのライト
その中で、
ひとり、背中を丸めていた人
呼んだ瞬間、
びくっと肩を震わせて、
慌てて顔を隠す。
その時聞いた声はいつもの明るい声じゃなく、
かすれて、弱くて、
今にも崩れそうな声だった。
それでも私は、立ち止まれなかった。
だって、その人は__
さっきまで、
誰よりも笑って、
誰よりも輝いていたから。
小さく、そう呟く
ぽたり、と床に落ちる音
それが涙だと気づくのに、時間はかからなかった。
拍手に包まれていた人が、
そのすぐ裏側で、
こんなふうに泣いているなんて、
知らなかった。
知ろうともしなかった。
無意識に、声が漏れる。
すると彼は、
少しだけ笑って、
でもその笑顔は、ひどく歪んでいた。
そう問い返されて、言葉を失う
答えなんて、わからない
ただ、
この人の中にある“何か”が、
拍手じゃ埋まらないってことだけは、伝わってきた。
ふいに、名前を呼ばれる
振り向かないまま、ぽつりと語りかけてくる
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
__かっこ悪いなんて、思わない。
むしろ、
こんな姿を見てしまったからこそ、
もう、目を逸らせない。
小さく答えると、
少しだけ、安心したように息を吐いた。
でもその背中は、まだ震えていた。
私はまだ、
何も知らない。
この人が、どれだけ自分を追い込んでいるのかも。
どれだけ“完璧”を演じているのかも。
そして__
この涙の理由が、
ひとつじゃないことも。
ただひとつ、確かなのは、
拍手の裏側で、君は泣いていた。
そして私は、
その涙を知ってしまった。
__それが、すべての始まりだった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!