(taiga side)
知ってる?北斗。
猫ってね、自分の死期を悟ると飼い主に心配けたくなくて、そばを離れるんだよ。
昨日、北斗に「まだ、いなくならないよね?」って聞かれたとき、ちゃんと笑顔で答えられてたかな?
愛してるなんて、普通に言えるのに、なんか昨日だけは言えなくて、“月が綺麗ですね”なんて言葉で隠した。
今にも倒れそうな俺は、北斗が俺を見つけてくれた、助けてくれた海辺を、体を引きずりながら歩いていた。
「あっ、、」
もう足には力が入らなくて、前に倒れてしまった。靴なんて、歩いてる途中に海にさらわれてしまって。
人間だけど、猫の時を思い出す。今思うと、よく何も履かずに怖くなかったよね、なんて、死ぬ前にしてはとぼけたことを考えながら。
もう死期はすぐそこだ。
最後のあがきで、もう一度、海に入りたい、そう思って、俺は最後の力を振り絞って、海の中へ一歩ずつ進んでいるときだった!!
北「大我ーーーーー!!!!!!」
張り裂けそうなくらい俺の名前を呼んで、俺のもとへ駆け寄ってくる北斗の姿が目に見えた。
そのまま、濡れることなんて気にせず、バシャバシャと俺のもとへきて、抱きしめられた。
「北斗、なんで…………」
北「何馬鹿なことしてんだよ!俺をおいていくな。ふざけんな!!っ涙」
激しい言葉と裏腹に、北斗に目には大粒の涙が見えた。
抱きしめられたまま、俺と北斗は海の中から出た。
でも、もう俺には力は残ってなくて、倒れ込む。
「北斗、俺、もう……」
北「これ以上いうな。」
そういって、冷えないように俺の体をさすってくれる。なんだか、それが気持ち良くて瞼が降りてきてしまう。
すると、北斗は一言
北「“ずっと前から月は綺麗”」
そういった。突然のことで、俺はびっくりしていたが、続けて
北「昨日の答え。これで、あってる??」
そんなふうに聞かれて、俺は
「あってる。ありがとう。北斗」
そういった突如だった。俺の唇は、北斗に奪われる。深く深く、俺を心から愛している、言葉にしなくても伝わるくらい。
その時だった。俺の心臓の部分から強く光る。
あぁ、思い出した。人間になって、寿命が縮んだ猫は、、、、
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。