第8話

狂気ノ足音
67
2019/02/28 02:01
白雪 沙紀
なんでまだ死んでないのよ!
ガッシャーン――と、響き渡る高級マンションの最上階一室。
妖しく光るシャンデリアに照られたソファーで頭を掻きむしる沙紀の姿。
足元には粉々に砕かれた花瓶の破片が散乱していた。

白雪 沙紀
しかも何なの! この書き込みは!
沙紀は怒りで震えながらスマホを手に持ち、血走った目で見つめていた。

ツイッターコメント(ユーザー名:麻友)
白雪姫は無実だ!
フォロワーのコメント
あんな可愛い子がするわけない!
ツイッターコメント(ユーザー名:麻友)
むしろ母親のほうがやりそうww
ツイッターコメント(ユーザー名:麻友)
年増ぽいしねw
フォロワーのコメント
確かにw 歳ごまかしてそう
ツイッターコメント(ユーザー名:麻友)
激しく同意ww
白雪 沙紀
ふざけんじゃないわよ!
ダッ――と、沙紀は怒り任せにスマホを床へと叩きつけた。
はぁ、はぁ、と肩で息をする沙紀は、憎らしそうにスマホを睨む。
白雪 沙紀
年増じゃないわよ。まだ十分若いの。
お前らのために若く設定してあげているだけよ。
私は若いのよ(ブツブツブツブツ)
一頻り頭を掻きむしると、沙紀は床に落ちているスマホを踏みつける。
白雪 沙紀
大体誰なのよ! この麻友ってやつは! 
せっかく私が貶めてあげたのに、擁護するようなコメントばっかり書き込みして!
――ダンッ。

白雪 沙紀
しかもあんなに雇ってやったのに、まだ殺せてないなんてどういうことなの!
――ダンッ。
白雪 沙紀
どいつもこいつも役に立たないわね!
――ダンッ!ダンッと、沙紀は憎々しげにスマホを踏み続けた。
白雪 沙紀
ふふふっ。……いいわ。だったら私が確実に殺してあげるわ。白雪姫!
沙紀はゆらりと体を揺らしながらリビングを出て寝室に向かう。
薄い紫の天蓋に包まれたベッド。
その脇にあるドレッサーディスクの引き出しを開けて、一つの瓶を取り出す。
妖しく濁った瞳で瓶を見つめると、沙紀は口元を歪めた。



















白雪姫
白雪姫
……う……ん?
ここは……ベッド? 私、いつの間にベッドで寝たの?
たしか逃げ出そうとして……
アル
アル
おはようございます。白雪さん
白雪姫
白雪姫
あ、アルさん⁉
視線を向けると、安心したように笑うアルさんがいた。
そのことに私は驚いて飛び起きてしまった。

アル
アル
病み上がりですので、あまり無理をしないほうが
白雪姫
白雪姫
病み上がり? ……そうだ……私
視界が歪んで、体が動かなくて……部屋にガスマスクの男が⁉
アル
アル
大丈夫です
白雪姫
白雪姫
え?
アルさんの声に振り向くと、優しく頭を撫でられた。
アル
アル
言いましたよね。私が貴方を守ると
私の心を洗い流すような笑みを浮かべるアルさんに、私は見惚れてしまった。
同時に、私は馬鹿だと罪悪感に苛まれる。

アル
アル
ど、どうしまたか⁉ どこか痛みますか?
ポロポロと涙をこぼす私をみて、アルさんが慌てふためいている。
初めてみるアルさんの姿になんだか嬉しくなるけど、それ以上に自分が嫌になる。
白雪姫
白雪姫
ち、違うん……です
私はアルさんを信じることができなくて
かってに逃げて
一人で塞ぎ込んで
殺されそうになった。
そんな私をなんで……助けてくれるの?
暗殺者を住まわせている管理人なのに、どうして守ってくれるの?

知りたい。
私はもっとアルさんのことを知りたい。
不思議と、そういう気持ちが沸き上がってくる。

白雪姫
白雪姫
……どうして、アルさんは私を守ってくれるんですか?
私は勇気を出して聞いてみた。
アルさんは驚いたように目を見開くと、一瞬視線を逸らして悲しげに笑った。
でも、すぐに私と視線を合わせて微笑む。

アル
アル
少し前に、白雪さんは捨て犬にご飯をあげて、飼い犬になってくれる人を探し回っていましたよね?
白雪姫
白雪姫
え?
アル
アル
普通だったら見て見ぬ振りをするのに、必死に探し回っている姿をみて、なんて優しい子なんだって感じました
白雪姫
白雪姫
え⁉ あ、あの……見られていたんですか?
アル
アル
たまたまですけどね。そんな子が道端で倒れていたので思わず
白雪姫
白雪姫
そ、それは必死に逃げていたからで
私を揶揄うように笑うアルさんに、恥ずかしくて頬が熱くなる。
だけど、アルさんはどこか悲そうな笑みをこぼして――

アル
アル
……誰にでも心優しい白雪さんを、依頼だからといって殺すのは間違っている
――私の手にそっと手を添えると。
アル
アル
そう思ったからこそ、私は貴方を守ると決めたんです
アルさんは優しく微笑んだ。
私はその笑みに見惚れながら、涙をこぼした。
嬉しかった。
その言葉がただ嬉しくて、私は気づくと
白雪姫
白雪姫
ありがとう……ございます
と、笑いながらお礼を伝えていた。
アルさんは一瞬目を見開くと、なぜだか頬を赤くして視線を逸らされてしまった。
ちょっとショックだけど、私の心が腫れたような気がした。


















――バタンッと、アルは扉を閉める。
扉に寄りかかるアルはどこか辛そうな、それでいて悲しそうに顔を歪めた。
胸元の服を掴み強く握りしめていると。
着信音が鳴り響く。

アル
アル
はい――
アルは一度息を吐き出してから電話にでたが……。
みるみる表情が強張っていき
握りしめた拳から、血がたれていた。

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