第4話

執事ノ家
103
2019/02/26 03:57
記者B
こっちだ!
記者A
絶対に確保しろ!
息が止まる。
壁越しから聞こえる記者達の声と足音に、私は恐怖で涙がこぼれてくる。
私がお父さんを殺すはずない。なんで皆、私が犯人だと疑うの?


……捕まったら犯人にされるの?




――誰か……助けてよ
アル
アル
もう大丈夫ですよ
白雪姫
白雪姫
……え?
優しく囁かれた声に、私は俯いていた顔を上げる。
執事さんは私と視線が重なると、にっこりと微笑みかけてくれた。
その笑に、私はドキッと胸が高鳴る。
アル
アル
彼らは気づかずに通り過ぎました
執事さんは私から離れて、記者たちが駆けた方へ視線を向ける。
つられて私も視線を向けると、誰も居ない街道。声も足音も聞こえない。
白雪姫
白雪姫
た、助かっ……たの?
アル
アル
……ですが、今は下手に出歩かないほうがいいですね
白雪姫
白雪姫
そう……ですよね?
アル
アル
はい。……事情は知りませんが、
あのような輩はハイエナのようにしつこいですからね
執事さんはそう言うと、心底嫌そうに眉を歪めて溜息をついた。
確かにあの感じだと諦めてくれないよね? 
それに、家にも張られているから……帰るに帰れない。

白雪姫
白雪姫
うっ……どうすれば
アル
アル
……暫くの間、私の家で匿いましょうか?
白雪姫
白雪姫
え⁉ そ、そんな悪いですよ!
アル
アル
その足ですと、彼らに捕まるかもしれませんよ?
白雪姫
白雪姫
うっ、それは嫌ですけど……でも
アル
アル
それに、ここは私の敷地内ですので、今更ですね
白雪姫
白雪姫
え?
執事さんがニコニコ笑いながら指さした方を見て、私は目を疑った。
壁に囲まれた広い庭に、ぽつりと建つ別荘のような家。
豪邸まではいかないけど、なぜだかここだけ世界が違うように感じる。

アル
アル
裏口を開けといて正解でしたね
愉快そうに笑いながら、執事さんは軽やかな足取りで家の方へと歩いていく。
どうやら執事さんは、自分の敷地内に入って記者達をやり過ごしたらしい。
で、でも、だからといって男性の家に匿ってもらうなんて……。
たしかに初対面とはいえ執事さんは優しくて格好いいし、見ず知らずの私を助けてくれた。
信頼はできるはず……だけど。
アル
アル
安心して下さい。ほとぼりが冷めましたら私がご自宅まで送りますので
執事さんは振り返ると、私に優しく微笑んだ。
ドキッとする。
私は見惚れてしまった。
同時に、執事さんのことをもっと知りたいというほのかな甘い思いを抱いてしまった。

アル
アル
どうかされましたか?
白雪姫
白雪姫
い、いえ。あ、あの私は白雪姫といいます。
先程は助けていただいてありがとうございます
アル
アル
私はアルといいます。
困っている人を助けるのは当然ですよ
――アルさんか。外国の人かな? でも日本人のように見えるからハーフ?
親切で優しい人だし……少しお邪魔するだけならいいよね?
私はそんなことを考えながら、アルさんの後を追っていく。
玄関口に着くと『メルダーハウス』と書かれた表札に目が止まった。
メルダーって何だろ? と、私が疑問に思っていると。
アル
アル
いらっしゃいませ。お嬢様
流れるような動きで、アルさんは扉をあけてお辞儀をする。
その様は執事そのもの。
やっぱり執事さんなのかな? と思いながらアルさんの案内で中へと入っていく。
広々とした玄関。高級旅館のような廊下を抜けて扉を開けてもらうと。
トビ
遅かったですね、アルさん
白衣を着た優しげな顔立ちの男性が、陽気な感じで声をかけてきた。
シス
ちぃ。さっさと消毒しろ。汚ねぇだろ
黒い手袋をした赤髪の男性は、心底嫌そうに鼻を鳴らした。
ハド
ねぇ、ねぇ。早く御飯作ってよ~。お腹空いた~
テーブルに伏せていた頭を勢いよく上げて、愛嬌のある笑みを浮かべる金髪碧眼。
グラン
…………客人か?
私をすごい目で睨みつけてくるオールバックの男性。
ヒスリー
う……ねむ
椅子に座りながら眠っている灰色の髪の男性。


テーブルで寛いでいた5人と、なぜかリビングの片隅で蹲って震えている謎の男?が一人。
6人の視線が一斉に私へと向けられて戸惑っていると。

アル
アル
彼らは私が経営するシェアハウスの住人です
アルさんはにっこりと笑いながら、6人の住人を私に紹介するのだった。

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