第10話

#10
615
2018/08/23 12:13
春乃side



声が聞こえた。目の前にいる男とは別の声。



気づけば男は、いなくなってて。

何が起こったのかわからないくらいで。
大丈夫ですか?
あなた
はい、ありがっ
櫻井翔
え、はる?
“ありがとうございます”が遮られた。


…え?はるって言った?


暗くてよく分からなかったけど、
あなた
翔…くん…
何でここに、いるの?
櫻井翔
お前、大丈夫かっ?何もされなかったか?
あなたの顔が一瞬にして心配の顔に
あなた
う、うん…
櫻井翔
何やってんだよ!一人でこんな暗いところで!
今度は怒った顔
櫻井翔
何かあったらどうすんだよ!
あなた
…ごめんなさい
あなたがわたしの前にかがむ
櫻井翔
とにかく無事で良かった
優しく笑うのが、暗くても分かる






櫻井翔
はい、
手渡された、缶ジュース。
あなた
ありがとう
あ、まだちゃんとお礼言ってなかったな…
櫻井翔
服汚れちゃったな
あなた
へ?
見ると泥だらけ。

押し倒されたときに付いたんだ。

早く洗い流したい。記憶と一緒に。
櫻井翔
デートか?
あなた
うん。その帰り
櫻井翔
そっか
翔くんの缶ジュースが、こつんって音を立てた。
櫻井翔
送ってもらえよ
あなた
バイトだったから彼氏
櫻井翔
そっか
あなたは、何か言いたげだったけど、その言葉で終わった
櫻井翔
……はる?
あなた
なに?
櫻井翔
こんなときに言うことじゃないけどさ、
あなた
うん
櫻井翔
この前は、ごめん
本当に申し訳なさそうに頭を下げてきた。



でも、わたしは、

“いいよ”

なんて、言えなくて。
櫻井翔
本当は、最後にメール送ろうと思ってたんだけど
あなた
最後?
櫻井翔
もう春には会わない。

突然、言われた言葉。


わたしも心に誓った、翔くんに会わない
櫻井翔
春の事困らせるだけだし
あなた
……
櫻井翔
最後にこれだけ言わせて?
翔くんの顔は、穏やかで
櫻井翔
俺、ずっと春の事好きだったよ

プリ小説オーディオドラマ