廊下の会話が静かな教室に響き渡る
私は前に座っている土屋くんをチラッと見た
もうどのくらい時間が経っただろう
彼は気にする様子もなく日誌を淡々と書いている
何か話さないと
勇気を振り絞り少し声が震えたがなんとか出せた
書いている手を止めずに彼はそう答える
高校生になってから数週間経ったが未だに隣の土屋くんとは上手く話せていない
いつも男の子達と話していて女の子と喋っているイメージがあまりないような
土屋くんも異性と話すの苦手な人なのかな
そう思ったらちょっと親近感が湧いてきた
再び沈黙が到来してしまい私は話題を考えていると向こうから話しかけてきた
突然下の名前を呼ばれたのであからさまに驚いてしまう
あ、そっか日誌に書くためか
手元を見ると既に書かれた土屋くんの名前の下の欄に高野、まで書かれた文字がある
土屋くんはササッとペンを走らせる
私が謝ると書いていた彼の手が止まりこちらを向く
日直の仕事の中で1番面倒な作業が日誌を書くことだ
多くの人はこれが嫌で日直が回ってくると憂鬱だと言っている
それなのに土屋くんは全部書いてくれた
流石にそこまでさせてしまうのは申し訳ない
そう言い荷物を背負いながら歩き出してしまう
確かサッカー部だって最初の自己紹介で言ってた
って今はそんなこと考えてる暇じゃない
声をかけると足を止めこちらへ振り向く
その声はさっきよりも少し冷たく突き放すような喋り方だった
部活で急いでるのに何引き止めちゃってるの私
土屋くんはため息をひとつこぼし口を開く
下を向いたまま必死に涙を堪える
視界が滲む中、足音が段々遠くなっていくのがわかった
やっぱり男の子って怖い
小学校高学年ぐらいから男の子が苦手になった
それから中学では必死に勉強をして高校は絶対女子校に行くと決めていたけれど呆気なく不合格
高校生にもなれば少しは苦手意識が無くなるかなと思ったけれど
あんなに怖い人が隣の席なんだ
これからの学校生活が憂鬱でしかない
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。