第3話

ゼロとは限んねーじゃん
50
2021/09/26 08:10
先生
それじゃあこの時間を使ってペアで校内見学をしてもらいます
説明がされ各ペア楽しそうに教室を出ていく
最後まで教室に取り残された私達は妙な空気が流れた
絶対私と校内見学なんて嫌だよね
そう思っていると突然土屋くんは立ち上がり私はビクッとしてしまう
土屋 結弦
土屋 結弦
さっさと終わらすぞ
先に歩いている彼の後ろを着いていく
あんまり迷惑かけないようにしなきゃ
ポイントとなっている教室にスタンプが設置されておりそれを全て集めるというのが今回の課題だ
渡された校内地図を見ながら土屋くんは着々と進めてく
すれ違うクラスの人達はとても楽しそうに喋りながら廊下を歩いていく
私達もあんな風にできたらと考えても虚しくなるだけだ
スタンプカードを見ると残りは図書室だけだった
西崎 奏汰
西崎 奏汰
お、結弦じゃん
図書室には既に何人か生徒たちがいた
土屋 結弦
土屋 結弦
奏汰もここで最後?
西崎 奏汰
西崎 奏汰
いや俺達理科室がまだ
西崎 奏汰
西崎 奏汰
てかお前ちゃんとペアの人と行動してる?
土屋くんはバツが悪そうに黙ってしまう
西崎 奏汰
西崎 奏汰
ちゃんとコミュニケーション取れよー
そう言い西崎くんは図書室を後にした
再び私達の間に妙な空気が流れる
土屋 結弦
土屋 結弦
…あぁもう
頭を掻きながら土屋くんが先に沈黙を遮った
土屋 結弦
土屋 結弦
高野何借りんの
高野 詩穂
高野 詩穂
えっと…
私は辺りを見回す
図書室に来たら本を1冊借りるというのも今回の課題だ
それを聞いた時から私はもう借りるものは決めていた
教育関係、と書かれたコーナーに向かう
えっとこの辺にあるかな
左から順にゆっくり目を通しお目当てのものを探す
高野 詩穂
高野 詩穂
あった
少し背伸びをして取り出そうとするが本棚にぎゅうぎゅうに詰められていて中々取り出せない
今出せる全ての力を右手に蓄え思い切り本を引っ張った
すると同時に両サイドにあった本も引き連れてしまいこちらに向かって落ちてくる
どうしよう、ぶつかる
そう思い反射的に目を閉じたけれど当たった感覚がない
土屋 結弦
土屋 結弦
っぶねー…
耳元で声がして目を開けると後ろから土屋くんが本を抑えてくれていた
想像以上の顔の近さに私は固まってしまう
硬直した私を見てか、あちらもこの状態に気づきそそくさと離れた
土屋 結弦
土屋 結弦
借りたい本ってそれ?
土屋くんは私が手に取った「教師を目指すには」という本に指を差す
高野 詩穂
高野 詩穂
うん、憧れてて…
小学1年生の頃
友達や環境がガラリと変わる時期
周りの人達は段々と新しい生活に慣れていく中、私は全く馴染めずにいた
大好きだったお母さんの送り迎えも無くなり当時の私は相当ショックだった
そんな時優しく声をかけてくれたのが担任の先生で
泣いている私にずっと寄り添ってくれた
そんな先生を見て自分も教師になりたいと思うようになったのだ
高野 詩穂
高野 詩穂
でも無理だよ…ね
こんな性格で人の前に立つとか
きっと教えられる立場じゃない
持っている本に自然と力が入る
土屋 結弦
土屋 結弦
別にゼロとは限んねーじゃん
高野 詩穂
高野 詩穂
えっ
俯いていた顔を上げる
土屋 結弦
土屋 結弦
憧れてんなら諦めたこと言ってんなよ
土屋くんの言う通りだ
そうだよね
諦めてたら叶うものだって叶えられない
先生
残りの生徒達も早く本借りてねー
先生の声と共に土屋くんはくるりと体を向けて歩き出す
高野 詩穂
高野 詩穂
土屋くん
高野 詩穂
高野 詩穂
私頑張ってみる!
今はまだ無理かもしれないけれど
この3年間で私自身変わるんだ
土屋 結弦
土屋 結弦
ハキハキ喋れんじゃん
こちらを振り向いた土屋くんは口角が少し上がっていた
その顔を見た瞬間胸が一瞬高鳴る
なんだろうこれ
この時はまだ自分の気持ちに気づいていなかった

プリ小説オーディオドラマ