ある程度時間が経って美術室へ急ぐ。
...怒られるかな、これは。
授業が始まる前に美術室を出た。だからサボりと同じ扱いになるだろう。
不安な気持ちが私を煽ってくる。
それでも...
隣には凌斗と冬馬。2人の強い味方がついている。
大丈夫、大丈夫...。
頭の中で繰り返す。心を落ち着かせるためだ。
覚悟を決めてドアを開けた。
一瞬、戸惑ってからぽかんとする。
松田先生は私を怒らないの?
勝手に美術室を出ていった私を叱ろうとしないの?
どんどん疑問が浮かび上がる。
一体、どういうことだ。何が起きているのか。
しーちゃんが座っているであろう場所へ振り返る。
私と目が合うとにこっと笑って小さくピースサインを見せてきた。
...なるほど。そういうことね。
ぺこりと頭を下げてお礼した。
...取り敢えず、話に合わせておいたけどこれで良かったのだろうか。
小さな嘘をついたことに罪悪感を抱いたが、本当のことは知られたくない。このまま突き通そう。
目線を変える。2人とは凌斗と冬馬のことだ。
”クラスメート”。
この言葉を聞いただけなのに、胸がチクッとした。
私ってば変なの...。
そう、彼は見た目に合わない保健委員だ。
ちなみにしーちゃんと共に保健委員を勤めている。
凌斗の口からも”クラスメート”と出た。
...それなのに。冬馬の時みたいに胸がチクッと痛まなかった。
同じ言葉なのには変わりない。
けれど、こんなにも差が出る理由は何───?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。