第129話

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2022/04/02 13:42
(目黒side)




あなたと滝沢くんが病院に行った後、俺達は誰も怪我などしてなかったから、とりあえずシェアハウスに戻ることになった。

午前4時くらいにシェアハウスに着いた時には、ほどんとの皆が寝ていた。

起きていたのは、車を運転していた岩本くんとしょっぴー、そして意外にもふっかさんもずっと起きていた。



前日が舞台の千秋楽だったのもあり、あなたがその日の午前中の仕事はオフにしてくれていた。

俺も含め皆は一刻も早くあなたの病院に行きたくて滝沢くんにお願いしたんだけど、午後からは仕事が入っていたのもあり、とりあえず寝ろ、と言われた。

仕事を持ち出されると何も言えなくなっちゃって、皆は大人しくシェアハウスで体を休めることにした。

けれど、俺は寝ることができなかった。

自分の部屋に1人でベッドに転がっていたら、あなたのことだけじゃなくて、他にもいろんなことを考えてしまったから。







それからは、皆、スケジュール通りに仕事をこなしていった。

その日の午後からは、メンバー全員での仕事があり、その後は各々雑誌の撮影だったり、ラジオの収録だったりと、個別の仕事が入っていた。

1番早くオフになったふっかさんと岩本くんがあなたの病室に行き、グループメールであなたの状況を教えてくれた。

だけど、それを見て余計にあなたが心配になった。

あなたは病院に着いてからも、ずっと眠ったままだという。

担当医の話によれば、極度の緊張状態から一気に解放されたのと、日頃の身体的疲労の蓄積が原因と思われるため、大きな心配はしなくていいとのことらしい。

本当にそれだけならいいんだけど…。







そんなあなたの状態を知ったふっかさんが、あなたが起きた時に、誰かがそばにいた方がいいんじゃないか、とメンバー皆に話してきた。

それに反対する人なんているわけもなく、仕事がなかったり、少しでも時間がある場合は、あなたのそばにいたいという要望を滝沢くんに出したら、すんなり許可が出た。












夜になり、俺と康二は次の日の仕事が午後からということで、あなたの病室に寝泊まりすることになった。

今、病室にはふっかさんと岩本くんの入れ替わりで佐久間くんと阿部ちゃんがいるはずだ。


向井「あなたー、入るでー。」

目黒「失礼しまーす。」

阿部「はーい。」

佐久間「おぉ、お疲れ。」


あなたの病室に入ると、佐久間くんと阿部ちゃんが少し小さな声でそう言った。

どうやらまだあなたは目が覚めていないようだ。


あなたの病室は、ドラマや映画で見るような相当お金がかかっていそうな個室だった。

あなたが寝ているベッドの他に、大きなテレビ、ローテーブルにソファーと、まるでホテルの一室のような雰囲気だ。



俺は荷物をソファーに置くと、あなたが寝ているベッドのそばに行った。

あなたの右足首には痛々しく太いギブスが巻かれているのに、あなたは驚くほど綺麗な顔で寝ていて、ある意味ゾッとした。


阿部「…あなた、綺麗だよね。」

目黒「うん…。」


阿部ちゃんはそう言って、自分達の荷物をまとめはじめた。

明日、阿部ちゃんは歌舞伎の稽古、佐久間くんも別で仕事があるから、俺達と入れ替わりでシェアハウスに帰ることになっている。


荷物をまとめた佐久間くんが、あなたのそばに来て、その頬をそっと撫でた。


佐久間「こうやって頬とか触ったら、アニメや漫画とかなら目が覚めるんだけどな…。触るのが俺だからか…。」

阿部「佐久間…。」

佐久間「なーんてね!じゃ、康二とめめ、後はよろしくね!」


佐久間くんは、さっきまでの寂しそうな表情から、一気にニコッと笑顔になった。

そして、佐久間くんと阿部ちゃんは病室から出ていった。



向井「あなたー、いつでも起きてええんやで?」


2人が出てった後、康二もあなたのそばに来て、そう優しく話しかけて布団から出ているあなたの手を握った。

あなたはピクリとも動かず寝たままだった。


向井「めめは手握らんでええ?」

目黒「え?」

向井「佐久間くん言うとたやん?目覚めるかもしれへんで?」


康二はそう言って、あなたの手を離した。

俺はそのあなたの綺麗な手に、自分の手を恐る恐る伸ばした。

そして、ギュッと握った。


目黒「あなた…。」


なんか掛ける言葉が見つからなくて、あなたの名前だけを呼んでみたけど、結局あなたは起きなくて。

そう簡単に起きるわけない、なんて思いながらも、佐久間くんが言ってたようになればいいな、なんて心のどこかで思ってた。





でも、佐久間くんも言ってたけど、多分、その相手は俺じゃない。






向井「まぁ、そんな簡単にはいかへんわな!」

目黒「…康二も、俺じゃないって思った?」

向井「え?」

目黒「康二でもなくて、俺でもなくて、ふっかさんならって思ったりした?」


俺はあなたの手をそっと離した。


向井「まぁ…、あんなん見せられたらなぁ…。あなたのあんなの見たことなかったしな。」


康二の言うあんなんとは、ふっかさんとしょっぴーがあなたを助けた後、ふっかさんに抱き付いたまま胸に顔を埋めて離れなかったあなたの姿のことだと思う。

あなたのあんな姿、俺だって見た時は吃驚したし、悔しくも思ったし、胸も痛んだ。


向井「でも、めめはめめ、ふっかさんはふっかさんやん!ライバルは多いことはわかっとたし、めめは負けへんのやろ?」

目黒「…俺さ、実は結構前にあなたに告ったんだよね。」

向井「あ、そーなん…、て、え?ええ?えー!」

目黒「うるさい。…で、多分、昨日あなたが仕事終わりに話あるって言ってきて、そのことだと思うんだけど…、ね。」

向井「めめ…。」


俺はあなたのそばから離れて、ソファーに座った。


目黒「話あるって言ってきた電話越しのあなたの声が、なんか妙に明るく聞こえちゃって、ちょっとだけ期待してた自分がいたんだよね。」


あー、俺、あなたが寝てるそばで何話してんだろ。

しかも、なんか泣きそうになってるし。


向井「そんなん、あなたに聞いてみやなわからへんことやん。」

目黒「まぁそうなんだけど…、でもなんか今までのあなた見てたらね。」

向井「それでもめめはあなたのこと守りたいし助けたいんやろ?」

目黒「実際、助けたのはふっかさんじゃん。」

向井「あほやな、あれは皆で助けたんやん。ラウは現場にはおらへんだけどあなたの本当のメッセージに阿部ちゃんと気付いてくれて、しょっぴーが先陣切って滝沢くんにぶつかってくれて、皆で説得して、めめも体でかいから男抑える方に回るって自分から言うてくれたやん。もし、男抑えるのがめめやなくてふっかさんやったら、阿部ちゃんの作戦がうまくいかへんだかもしれへんのやで?」


康二の言葉が、いちいち胸に響いて余計に涙が溢れてくる。

多分、午前中にいろいろ考えてたことが、あなたの寝顔を見たのを引き金に、ポロポロと口から出てしまったんだと思う。

でも、優しい康二はそれを全部受け止めてくれた。

あぁ、一緒にいたのが康二だから、胸の内を思わず言っちゃったんだろうな。


そんなことを考えてたら、あなたのそばにいた康二も俺の隣に座った。


目黒「…なんか、いつもと逆だね。」

向井「ええんやで、いつでもこの胸に飛び込んできて来ても。」

目黒「それは遠慮しとく。」

向井「なんでや!」


康二がそう言ってれるから、なんか気持ちも明るくなれた気がする。


康二には直接言ってないけど、こういう康二の優しさに、俺は何度も救われてるんだよね。



言ったら調子に乗るから絶対に言ってやらないけど。









目黒「俺らがいる時に、あなたが起きたらいいね。」

向井「そしたら優勝やん!」


あなたか目が覚めて、あなたが元気になって、あなたのタイミングであの返事をくれたらいい。

俺がいつまでも待つって言ったんだから。

むしろ、返事くれるまで俺がもっとがんばればいいわけだし。






目黒「で、康二はどうなの?」





俺が康二の方を見て言うと、康二は俺から目をそらした。














●筆者のぼやき●
思っとたんと違うけどいっか(笑)

いつも♥️&💬ありがとうございます!
誤字脱字ありましたらすみません。

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