(あなたside)
渡辺さんは、あの夜の皆の様子を順を追って話してくれた。
渡辺「それで、あなたからメッセージが送られてきて、それに阿部ちゃんとラウールが縦読みで"たすけて"になることに気付いたんだよね。それと同時にふっかが滝沢くんに連絡してて…。」
『気付いてくれてよかったです。』
渡辺「てか、よく考えたよね。」
『あの時、ナイフで脅されながら送ったんですよね。その時にこの傷ができました。』
渡辺「怖かったよね…。」
『その時は怖いよりも私のせいでデビュー前の皆さんに迷惑をかけないかが心配だったので、なんとか今の状況を知らせなきゃと必死でした。』
だって彼らの狙いは私じゃなくて、SnowManの皆だと思ってたから。
あれだけ送れば、滝沢さんに確認の連絡をしてくれると思ってた。
滝沢さんに連絡がいけば、あの内容が嘘だということがわかるし、"たすけて"のメッセージに気付いてくれれば、私がただならぬ状況であるとうことが伝わると思ったから。
…あぁ、そうだ。
『…滝沢さんから実家のことは聞きましたか?』
私が渡辺さんにそう聞くと、渡辺さんは少しだけ目がピクッと動いた気がした。
そして、少し目を細めながら言った。
渡辺「…実家がないことは聞いた。」
『そうですか…。』
あの時は後先考えずに、とりあえず今の状況を知らせるために送ったし、別に隠したかったわけでもないんだけど、いざ少しでも知られてしまうと、変な気持ちになる。
そんなことを考えていたら、渡辺さんが静かに口を開いた。
渡辺「…ラウールと佐久間が気にしてたよ。」
『え?』
渡辺「あなたの誕生日に、聞いちゃいけないこと聞いたかもって。」
『…。』
そう言えば、誕生日を祝ってもらったあの日、ラウールくんと佐久間さんに両親のことを聞かれたんだっけ?
あのタイミングで両親のことを話したら、空気が重くなることはわかっていたから、慎重に言葉を選びながら話してた気がするな。
滝沢さんがどこまで詳しく言ったかわからないけど、2人がそんなに気にしているのなら、渡辺さんが言ってた以上のことも話しているのかもしれない。
渡辺「だから明日、皆が来たら聞かれると思う。話すかはあなたに任せる。でも2人のことを安心させることができるなら、させてあげて欲しい。」
『渡辺さん…。』
渡辺さんに限ったことじゃないけれど、このSnowManという人達は、本当にメンバーを大切にしているんだというのがすごく伝わってくる。
そして、そう思うたびに、無意識に1歩下がったところから皆を見るようにしてる私がいる。
すると、ちょっと重くなった空気を変えるように、渡辺さんは私の頭をペシッと軽く叩いた。
渡辺「まだ聞きたい?てか、休まなくていい?」
『あ、すごく寝たので目が冴えてて…。』
渡辺「そういえばそうだったな。」
『渡辺さんこそ、眠たくないんですか?』
渡辺「今日はとことんあなたに付き合ってやる。」
何て言いながら、小さくあくびなんてするもんだから、少しだけ笑ってしまった。
『説得力がありませんよ?』
なんて、少しからかうように行ってみたら、渡辺さんは小声で何かを言った。
渡辺「…嫌だから。」
『え?』
渡辺「目が覚めて、またあなたがいなくなってたら嫌だから。」
そう言いながら私を見つめる顔は、ちょっと不安げで。
私は思わず渡辺さんの手を握った。
『でも帰ってきましたよ。最終的に渡辺さんのところに帰ってきたらどうでもいいんじゃないですか?』
私はいつぞや言われたこと渡辺さんに笑いながら言った。
すると、渡辺さんは私の手に一方の手を重ねて、力強くぎゅっと握った。
渡辺「…今回は訳が違うでしょ。俺だけじゃないけど、かなり焦ったんだから。滝沢くんもなかなかあなたのところへ向かおうとしないし、会社の寮の場所も教えてくれないし…。』
そう言いながら、渡辺さんはさっきまでの話の続きをポツポツと話し始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。