第133話

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2022/03/01 09:00


(あなたside)





病室の扉が開いた瞬間、渡辺さんは瞬時に椅子から立ち上がった。


滝沢「あなた!」

渡辺「滝沢くん、お疲れ様です。」


扉を開けて病室に入ってきたのは滝沢さんだった。


『ど、どうしてここに滝沢さんが…?』


先ほど、先生が滝沢さんに連絡するか聞いてきた時、渡辺さんがこちらからすると断っていたはずだ。


渡辺「…あなたが診察を受けてる間に俺が連絡した。」


渡辺さんはコソッと私にそう言って、私のそばから離れた。

そして、入れ替わるように滝沢さんがそばにやってきた。

すると、滝沢さんは私に向かって深々と頭を下げてきた。





滝沢「すまなかった…。」





謝られている理由が私には全然わからなくて、私は思わず声を張り上げて言った。


『頭を上げてください!謝らなきゃいけないのは私の方で…。』


SnowManの皆を危険な目に合わせてしまったのは私だ。

おそらく滝沢さんが1番避けたかったことをさせてしまったんだ。

なのに、滝沢さんは全然頭を上げようとしてくれなかった。


滝沢「今回の件は会社側に責任がある。あなたはただ巻き込まれただけだ。」


滝沢さんはそう言って、ゆっくりと頭を上げて私を見た。

その表情には本当に申し訳ない気持ちが現れていた。


私は巻き込まれただけ?


頭に?を浮かべていたら、滝沢さんは今回の経緯をゆっくり説明してくれた。









今回の件の首謀者は、やっぱり小野田さんだった。

小野田さんは、私と同期入社し同じ部署に配属された女性だ。

入社したばかりの小野田さんは、見た目ばかりを気にしてそこまで仕事ができる子ではないという印象だった。

だから、私もあまり深い付き合いはしておらず、同期だけど特に仲が良いわけではなかった。

そんな彼女の正体は、実はうちの会社とも長年仲良くさせてもらっている大企業小野田グループの代表取締役の一人娘だというんだ。

彼女のことは一部の上司にしか知られていないことだったらしく、同期の私達は当然、私の教育担当に当たっていた先輩達も知らなかったことらしい。


そんな彼女がなんでこの会社に入社したかって、彼女はジャニーズタレントが大のお気に入りだった。

娘に甘い父親なのか、彼女は父親のコネを使い、ライブのチケットやグッズを手回ししていたとか。

それだけならまだよかったのに、今度は父親から入社させてくれと頼まれた時には、ファンとタレントの直接的な交流を避けたかった前社長はかなり悩んだらしい。

その結果、彼女は入社はさせるがタレントと関わりが一切ない事務に配属になった。


その彼女から、月例面談があるたびにタレントと直接関われる部署への異動願があったの言うまでもない。

それは彼女の父親を通じても頼まれていたらしいんだけど、前社長はこれを許さなかった。


そんな中、彼女と同期入社で同じ部署に配属され特に異動願も出してなかった私が、なぜか急に彼女が希望していた部署への異動が決まった。

そして、その数ヶ月後、彼女は自ら退社した。

その後も、小野田グループとは仲が拗れることなく付き合っていたし、頭を抱える要因がなくなって前社長も悩みが減ったと喜んでいたらしいけど、彼女はそこで終わらなかった。


私がSnowManに付き始めた頃から、お金と人を使って、私の動向を探っていたらしい。

そこでSnowManの皆とシェアハウスしていることを突き止めて、今回のことを実行するため、私達の行動パターンや監視カメラの設置場所などを念入りに調査していたようだ。


合わせて、今月末に1ヶ月分の事務データが消えたのも、彼女がお金と人を使ってやらせたことだと判明した。

確かに彼女なら、月末に事務データが消えることの重大さや、バックアップ方法なども、元々いた職場だから把握しているはずだ。




自分の思い通りにならなかった腹いせとその怒りの矛先が、事務の皆と私に向いてしまい、今回のことが起きてしまったということだ。



私がシェアハウスに夜遅くに帰宅した時に感じていた視線も、おそらく小野田さんに雇われた誰かだったのかもしれない。

でも最近設置した監視カメラの存在までは把握しきれてなかったみたいだけど。




今回の件は、会社同士でしっかりと話し合い、これからも良い関係を築いていくために、内密に処理されることになった。

小野田グループの代表取締役は、娘には甘いが、それなりにできる人らしく、事務データの消去に関する損失金、私の治療費などを全額負担してくれることになった。



滝沢さんは話し終わった後、再び頭を下げた。


滝沢「あと、俺もあなたを働かせすぎた。申し訳ない。」

『あ、いえ。それは私が詰め込み過ぎたというか…。』

滝沢「あなたは優秀だし、平気な顔してどんどん仕事をこなすから…、調子乗って仕事を与えすぎてた。これからは気を付ける。」


私としてはこれくらい忙しい方が余計なこと考えなくていいし、やりがいも感じられるからいいんだけどな。


滝沢「あと、こいつらにはちゃんと感謝しとけよ。これだけで済んだのはこいつらのおかげなんだから。」


滝沢さんはそう言いながら渡辺さんを見た。

渡辺さんは、急に見られて吃驚したのか、少しだけ目を見開いていた。


滝沢「俺、こいつに襟元掴まれて脅されたんだから。あー怖かった。」


そう楽しそうに滝沢さんは言うけど、一方渡辺さんはかなり焦っているように見えた。


渡辺「ちょっ、え、まぁ、間違ってはないですけど…。」

『え?滝沢さんを脅したんですか?』

渡辺「脅してはない!ちょっと!滝沢くん!」

滝沢「まぁ、そこは渡辺から聞いてくれ。俺は事務所に戻らなきゃいけないからまた明日も来るわ。」


焦っている渡辺さんを横目に、滝沢さんはケラケラと笑いながらそう言った。

そして、滝沢さんが私のそばから離れようとした時、私は滝沢さんにずっと気になっていたことを聞いた。


『あ、あの…、私の仕事や打ち合わせとかって…。』


今回の件の真相も気にしていたけど、それ以上に気にしていたのは仕事のことだ。

特に、他社との打ち合わせなどは、迷惑を掛ける相手は社内だけではない。

私がセッティングした打ち合わせも、今週も数件入っていたんだ。


滝沢「あぁ、それは大丈夫。俺と代理の奴でなんとかなる。打ち合わせの議事録はメールで送っておくから、それだけは確認しといて。」

『…わかりました。』


なんだか私がいなくても、うまく仕事が回っていくんだな…。

なんだかちょっとだけ寂しく感じるのはなんでだろう。


滝沢「あと、あなたは10月いっぱいは強制休暇な。じゃあ、そういうことだから。」

『え?ちょ、滝沢さん!』


そんな私の気持ちとは裏腹に、滝沢さんはそう言い残し、病室からそそくさと出ていった。










滝沢さんがいなくなった病室に、無言の空間が流れた。


本当は、明日にでも仕事用のパソコンをここに持ってきてメールの確認をしたいくらいなのに…。

あ、でも、私がいなくても滝沢さんや代理の方がうまく回してくれるから大丈夫なのか。

え、それってやっぱり私がいてもいなくても変わらないんじゃない?

あれ?私、仕事に復帰したら居場所ある?


目が覚めてから、一気にいろんな情報が入ってきて、頭を整理したいなんて思ってたのに、逆に混乱しそう。

それに情緒が不安定なのか、ネガティブなことばかり考えてしまう。


10月いっぱいは休みって、そんなつもりで言ってないんだろうけど、まるで私はいらないって言われてるみたい。



なんだか、二十歳の誕生日に感じた喪失感に少しだけ似てる気がする。





渡辺「あなた?」




遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえる。

でも、負の感情が頭の中でグルグルしてて、ただ布団を握り締めることしかできなくて。



渡辺「おい!あなた!」

『えっ!』



大きな声が聞こえて、体をビクッとさせた。


あ、そうだ、今は病室で渡辺さんといるんだ。


渡辺「何考えてるか知らないけど、俺らはあなたなしでこのまま仕事するとか考えてないからな!」

『渡辺さん…。』

渡辺「その、なんだ…。あなたと一緒にまた仕事できるように、滝沢くんと俺らで考えて、今はあなたにゆっくりしてもらおうって決めたの!」


少し照れくさそうにそう言う渡辺さんは、なんだかちょっとかわいくて、さっきまで顔が見れないなんて思っていたのに、そんなこと忘れてしまうくらいだった。




『ありがとう…ございます…。』




でも、私の気持ちを汲んで、そう言ってくれるのがとても嬉しくて、私はちゃんと渡辺さんの顔を見て笑った。

















●筆者のぼやき●
文字入力がめちゃ遅くて、キーボードを違うアプリにしたんですけど、なかなか慣れなくて…
でも結局長時間使ってたら遅くなってしまい、5年以上使っているスマホのせいにすることにしました(はやくかえろ)

いつも♥&💬ありがとうございます!
誤字脱字ありましたらすみません。

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