第8話

一章-8
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2022/04/27 23:00
 男の子は、私が彼を足止めしたので、これ幸いとばかりに男性に駆け寄ると、タックルするように背中にしがみついた。
男の子
あなたが頼みを聞いてくれるまで放しませんっ
水無月愛莉
水無月愛莉
あのっ、もしあなたがこの子の家族に犯罪を強いているなら、解放してあげてください。この子がこんなに頼んでいるんですから、お願いを聞いてあげてください
 必死な男の子が可哀想になり、勇気を出して男性に向かって頼むと、彼は目を細め、私の顔を見た。
男性
男性
あんた、まさかこの子が見えるのか?
水無月愛莉
水無月愛莉
見えますけど……
 問いかけの意味が分からず戸惑いながら答えると、男性はしばらくの間、無言で私を見つめ、不意に大きな溜息をついた。
男性
男性
大国主命おおくにぬしのみことが、縁を結んだってことか……
水無月愛莉
水無月愛莉
……?
 男性の言葉の意味が分からず首を傾げた私に向かって、
男性
男性
ああ、もう、仕方ねぇなあ。ついて来いよ
 彼は顎をしゃくった。そして、しがみついている男の子の手を取ると、大股で歩き出した。
水無月愛莉
水無月愛莉
(もしかして、組事務所に帰るのかな)
 それならば余計に男の子のことが心配だ。私は彼について行くことに決めると、これから何が起ころうとも動じないよう、気合を入れた。もし危ないことになれば、すぐに警察に電話をしよう。さりげなくバッグからスマホを取り出し、手に握る。

 せめて何事もないように神頼みをしておこうとお社に目を向けると「縁結び・健康長寿 大国社」と書かれた立札が立てられていて、そばに狛ねずみの像が建っていた。丸いフォルムが可愛らしい二体の狛ねずみは、片方は巻物を持ち、片方は水玉を持っている。

 お社に手を合わせていると、
男性
男性
早く来いよ
 階段の下から不機嫌そうに私を呼ぶ声が聞こえた。
水無月愛莉
水無月愛莉
は、はいっ
 私は慌てて返事をすると、お社に背を向けて男性の元へと走った。

 妙なことになってしまったと思いながら、男の子の手を引き『哲学の道』を行く男性の後について歩く。
水無月愛莉
水無月愛莉
(どこまで行くんだろう……)
 「組事務所はこの辺りにあるのかな」ときょろきょろしていると、疏水の向こうに、焦げ茶色の屋根に白い外壁の雰囲気のいい家が見えてきた。小さな洋館といった風情の佇まいが『哲学の道』に似合っている。大きな窓が開け放たれていて、中に若い男性の姿が見えた。

 大豊神社で出会った強面の男性は、私と男の子を引き連れ小さな橋を渡ると、その家に向かって歩いて行く。
水無月愛莉
水無月愛莉
(こんなお洒落な建物が組事務所なの?)
 不思議に思っていると、道の端にブラックボードが置かれていることに気が付いた。ボードには、白いチョークで、

Cafe Path
~ Lunch Menu ~
Today's pasta set 
Hot sandwich set
~ Cafe Menu ~
Cake set

と書かれている。
水無月愛莉
水無月愛莉
(えっ? もしかして、ここ、カフェ?)

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