第5話

一章-5
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2022/04/06 23:00
    *

 翌日、私は、善は急げとばかりに東京駅に向かった。

 一泊二日の小旅行。

 昨夜、一生懸命調べてみたが、急な計画だったので、空いている手頃な宿は見つからなかった。
水無月愛莉
水無月愛莉
(現地でも宿が見つからなかったら、カプセルホテルとか、ネットカフェにでも行けばいいかな)
 私はポジティブなタイプではない。けれど何故かどうしても行きたいという強い思いに突き動かされた今回の旅行は、細かい不安を抱くよりも、
水無月愛莉
水無月愛莉
(行き当たりばったりでも何とかなる!)
 そんなあっけらかんとした前向きな気持ちでいっぱいだった。

 スーツケースを引き、意気揚々と新幹線に乗り込む。週末の新幹線は混んでいたが、何とか指定席の切符を取ることができたので、到着まで駅弁を食べたり、駅の書店で買った京都のガイドブックを読んだりしながら、悠々と過ごした。

 京都駅に到着し、改札を出ると、
水無月愛莉
水無月愛莉
わあ! 京都駅って思っていたより近代的
 私は、アーチ状にガラスが嵌め込まれた高い天井を見上げて驚いた。左右を見るとエスカレーターがあり、それぞれ隣接する百貨店とホテルへ繋がっているようだ。光の差し込むアトリウムから外へ出ると、駅前はバスターミナルになっていた。

『哲学の道』へ行くには京都市営バスが便利だと予習をしていたので、スーツケースをコインロッカーに預けてから、バスターミナルへと向かう。

 駅の目の前には京都タワーがそびえている。白く細いフォルムで、上の方にある赤い円形の部分は、展望室になっているらしい。
水無月愛莉
水無月愛莉
(何だか、ロケットみたいに飛んで行きそう)
 そんな感想を抱きながら眺めていると、ターミナルに目的のバスが入って来た。
水無月愛莉
水無月愛莉
あ、やっと来た
 緑色の車体が目の前に停まると、私は他の客の後についてバスに乗り込み、空いている席に腰を下ろした。

 バスは途中、繁華街を抜け、川を越えると、山側へと向かって走って行く。

 ガイドブックを見ると、繁華街の辺りは、四条烏丸しじょうからすま四条河原町しじょうかわらまち祇園ぎおんなどと呼ばれているようだ。
水無月愛莉
水無月愛莉
(祇園は聞いたことがある。確か舞妓さんがいるところだよね。さっきの川は、鴨川かもがわって言うのか)
 山の方面に向かって真っすぐに進んでいたバスは、「次は『神宮道じんぐうみち』」とのアナウンスの後、左へと曲がった。すると目の前に見上げるほど大きな朱色の鳥居が現れて、私は、
水無月愛莉
水無月愛莉
わあ!
と目を丸くした。
水無月愛莉
水無月愛莉
(あれは何だろう?)
 急いでガイドブックをめくってみると、平安神宮へいあんじんぐうの大鳥居だという説明書きを見つけた。この辺りは、平安神宮を中心にした、文化施設の多い岡崎おかざきというエリアらしい。

 大鳥居の手前には、お堀のような見た目の水路が流れている。明治時代に、給水や水運などの目的で、琵琶湖の湖水を京都に流すために作られた、琵琶湖疏水びわこそすいという水路なのだそうだ。

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