第3話

金色が繋いだ真白の花
95
2019/10/20 05:14
継承の儀から数日後。フィオーレはいつもと変わらない退屈な日常を過ごしていた。
(花娘になっても殆ど変わりはしないのかあ…)
退屈と言っても、することが無い訳では無い。礼儀作法、バレエ、ヴァイオリン、化粧のレッスンをしたり、「お茶会」という建前の腹の探り合いを毎日の様に行っている。…だからこそ嫌なのだ。この生活が、この檻が。どこをとっても平凡な自分が何故「お嬢様」として生まれてきたのか疑問に思う。ただの平民として生まれていれば、「お嬢様」という存在に夢も希望も見れたのに。気高き可憐なお嬢様の現実は、莫大な資金を浪費した挙句落ちぶれて、暗く澱んだ瞳で足を引っ張り合っている者が大半だ。
すっかり茜色に染まった空を見上げてフィオーレは溜息をついた。自分もお嬢様である以上、歪んだ世界に片足を突っ込んでいる訳なのだから他人ばかりを責められない。人を呪わば穴二つ。今この瞬間にも自分が《偽善者》と謳われ、お茶会の楽しい御話のネタにされているかも……やめよう、こんな事を考えるのは。《花娘》の称号を手に入れてから少々人目を気にしすぎなのかもしれない。気分転換に花の手入れでもするかな…と立ち上がった時。
「お嬢様、ご機嫌いかがでしょうか?」
ぱちり。一筋の金色の光が視界に入る。酷く眩しいが、それでいて心地よい、暖かな光だった。一瞬、自分が話しかけられているのを忘れてしまう程。
「え、ああ。私は大丈夫だよ。」
「…なら良いのですが。わたくしの目にはお嬢様が何か…余り宜しくない考え事をしている様に見えたので。」
正解だ。流石は代々ビスコッティに仕えているメイド、ソプラ・カルチェラタン。初代の時から培ってきた観察眼は本物らしい。
「私、花の手入れしてくる。」
変に心配をかけるのも嫌だったので、フィオーレが急ぎ足でこの場を離れると、
「フィオーレ様ー!」
と、後ろから声が聞こえてくる。声は段々近くなり…
「お待ちください!」
息を切らしたメイドがすぐ背後そばにいた。見ない顔だったので、ソプラに新しく任命された新人さんなのかも知れない。
「どうしたの…?」
「……っ!お茶会の準備が出来ました。お嬢様が、その…そのような事が好きではない事は聞いております。…しかし、体験するのも勉強かと……!」
酷く怯えた目をしていた。この子の種族は獣人。猫耳猫尻尾が付いた普通とは違う外見。この世界では亜人…特に獣人は酷く差別を受ける傾向がある。仮に名家の方や貴族の怒りに触れた場合…一瞬で首が落ちるだろう。勿論、物理的に。
自分が死ぬ可能性のある状況下において、勇気を振り絞って進言する…逃げてばかりのフィオーレと大違いだった。
(…行ってみようかな)
「お茶会」を悪いイメージで捉えているのは、悪い例ばかり見ているせいで、もしかしたらいい所を見逃しているだけなのかも知れない、と自分に言い聞かせる。
(それに、もし行かなかったら可愛いこの子の首が飛ぶ。100%。)
それが理由として大きかった。兎に角、今のフィオーレには「行く」という選択肢しか残されていない。新人のメイドさんににっこりと笑いかけ、なるべく優しくゆっくりとした口調で返事を返した。
「分かりました。私「お茶会」に行ってみようと思います!…所で話は変わりますが、その猫耳と尻尾可愛いですね!もふもふです!もふっていいですかいやもふらせて下さい!お願いします!多分ふわふわなものをもふもふすれば元気が出てお茶会にダッシュで行ける様になると思うんです!」
_人人人人人人人人人_
<何言ってんだこいつ>
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
途中まではよかった。途中までは。所で話は変わりますが、からおかしくなっている。
(いや…うん。猫と植物は好きだけれども)
それは純粋な愛であり、断じて変態的な感情からでは無い。フィオーレは自分の好きなことに振り切ってること以外は極々普通の女の子である。…そう信じたい。
問題なのはこの子にどう思われたか、だが……。
「お嬢様、お褒め頂き有り難き幸せに御座います!…もふもふがどうっていうのはよく分かりませんでしたが、…私の耳を触りたいのですか?…このようなもので宜しければ、ご自由にどうぞ!」
何の抵抗もせず耳を差し出す。
(…純粋だ!)
本当に助かった。もし彼女……これから身の回りの世話をして貰う人に変態の烙印を押されていたら、社会的に死んでいた。
フィオーレが変な事をしても多少は動じないことが分かったので、取り敢えずもふらせてもらう。
……
……
(もふもふです最高です有難うございます!(合掌))
「あ、そろそろ始まる時間ですね。」
……言われてしまった。これで再び現実を直視する事になる。しかし、猫充電をしたフィオーレは先程のように憂いたり嘆いたりすることは無く、どんな事も出来る様な気がしていた。
「では、いざお茶会戦いに行きましょう!…えーと、貴方にも着いてきて貰いたいのですが、御名前は…」
「名前は有りません」
「え?」
「私が生まれて直ぐ、両親が人間によって殺されてしまったので……」
浅はかな考えだった。このような仕事を獣人がしている時点で予想はついていた筈なのに。何気なく鼻歌を歌うような、そんな感覚で従者のトラウマを掘り返してしまっては、主失格だ。
「ですから私は……」
「ましろ!」
「え…と。それは一体……。」
「貴方の名前です。…貴方の事情を知らずに酷いことを言ってしまい、申し訳ないです。そのお詫びといっては何ですが、《名前》を贈らせて頂けませんか。」
…大切な事を伝える時は、魔法を使う時の感覚に似ている、と誰かが言っていた気がする。言葉を伝える魔法をかける相手の事を見つめて、呼吸や瞬きを同調させるのだ。
「お詫びだなんて…とんでもない。良くある事です。此の世は弱肉強食の理。力の弱い我々獣人は、人間様に逆らうことなど出来「それは違います!」
必死に台詞を遮って、自分の意見を述べる。
「単純な力の強さなら、獣人族の方が強いではありませんか!それに人間族は嘘という名の化粧で着飾り、何の根拠も無いことをそれらしく仕立てあげているだけです!いいですか、全ての種族は平等なんです!…平等である筈なんです……。」
後半は殆ど消え入りそうな声だった。人間族は、あまりにも惨い行いしかしていない…それを再確認させられたからだ。しばらくの間、双方の沈黙が続く。


「はい」
静寂を先に破ったのは、彼女の方だった。
「お嬢様に提案していただいた御名前…お受け致します。これから、私の事をましろとお呼び下さい。」
覚悟を決めた目だった。まるで、過去の自分を捨て、新しく生まれ変わるとでも言うかの様な。
「本当に宜しいのですか…?」
「勿論。生半可な気持ちでお嬢様にお返事などしませんよ。…しかし、まだ不思議な感じです。」
ましろが髪をサラリとかきあげて見せる。
「私の髪や目は緑色で、とても「ましろ」という風では有りませんから…。」
「…それは、貴方がとても純粋ピュアな優しい人だから、です。」
「え?」
「純粋という意味の花言葉を持つ花は、チューリップにガーベラ、薔薇などが挙げられますが、それらは全て《白い花》なんです。つまり…何処までも白い、ましろなんですよ。」
「素敵です。とても…。」
二人はお互いの顔を見て笑い合う。
「そうだ、そういえば今日は私の誕生日なんですよ。」
と、ましろが呟いた。
「それはおめでとうございます!一体何歳に…」
「一歳ですよ。」
「えっ?」
「ふふ、理由は秘密です。」
とある屋敷の午後七時。お嬢様に仕える一人のメイドは悪戯っぽく微笑んでみせた。

作者
3155文字!すごいな今回
コノハ
コノハ
ましろちゃんも新たに加わって、少しずつメンバーが増えてきましたね〜
ソプラ
どうも相変わらず出番の少ない私ですよ!
ソプラ
悲しい
ましろ
ソプラさんなんかすみません…
コノハ
コノハ
猫可愛くて、つい…
ソプラ
私が猫になればいい…?(迷案)
作者
もしソプラさんが猫になったら全力でもふる
コノハ
コノハ
上に同じく
ソプラ
ฅ(^^ฅ) 
ましろ
にゃお!にゃおにゃお!
一人目の少年
何かやばい事になってるんだけど…
ちょグレイくんあの人ら止めて
二人目の少年
…まあいいですけど。
二人目の少年
……あの、皆さん。
お茶会って間に合ったんですか……?
コノハ
コノハ
あっ
作者
やっべ
二人目の少年
…おい
作者
という訳で急いでコノハさんをお茶会に行かせるために今回はここで終了!
作者
ご覧頂き〜
みんな
ありがとうございました!

プリ小説オーディオドラマ