「……ホテルから出て来たのをたまたま……それに……お金……もらってた。お兄ちゃん、あの人とセックスしたの?」
言葉を失った。
リカは真剣な顔をしていた。僕はなにか言おうとした。けれど、頭が真っ白になってできなかった。もうむりだ。隠していたことがリカにバレてしまった。金で買われる情けない姿をーー。
僕は一度息をした。それから、本当のことを話そうと顔を上げた。
「じつは……」
「セックス……したい」
「え?」
「セックス……お兄ちゃんと、したい」
「な、なにを、」
「お願い……お金なら……あるから」
わけがわからなかった。ほんとうに、わからなかった。リカは引き下がらなかった。どんなに説得しようとしても、顔を縦に振らなかった。
気づけば僕らは近くにあるラブホテルに入っていた。
リカは部屋に入るや否や服を脱ぎ出した。
「ちょ……リカちゃんっ、待って……本気なの?」
「……うん」
「な、なんで、ぼ、僕は、君を」
「私ね。もうすぐ死ぬの」
「え?」
「死ぬ前に一度くらいセックスっていうの……してみたかった。だから……お願い」
「……そんな」
もうすぐ死ぬ? そんなことって……。
僕はリカのことをなにも知らなかった。知ろうとしなかった。怖かったのだ。嫌われるのが。
そんな彼女が今僕を求めている。僕の本当の姿を知ってもなおーー。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。