― 新着メール1件 ―
【さくらの部屋】
ピピピ♪
【教室】
そこであたしは、
寝ぼけ眼を大きく見開いた。
五十里冥くんは
中学からの同級生。
当時は明るくて友達もいた冥くんだけど、
高校に入って
「逆」高校デビューしてしまったのだ。
ジリリリリリリリ♪
気づくと冥くんの顔が、
もう少しでキスできそうなくらい
近くにあった。
そして、
くちびるとくちびるが
触れそうになるまで近づいて、やっと。
あたしは身を引いて冥くんから距離をとった。
冥くんは表情の読めない瞳であたしを見つめて。
――「だけど、あんたが
前の俺がいいっていうなら……」――……
さっき冥くんが口にした言葉は、
あたしの書きかけの小説に出てくるセリフ。
主人公の女の子に、相手役の男の子が
せまる際のセリフなのだ。
……そして、
キスされそうになってしまうのも、今と同じ……。
あたしの小さなつぶやきは、
そのまま虚空へと消えていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!