前の話
一覧へ
次の話

第1話

第1話
690
2019/01/23 04:50
― 新着メール1件 ―
冥
(なんだ? メール?)
冥
(俺にメールを送ってくる
ヤツなんて……)
冥
(……差出人不明?)
冥
(それになんだ、この長文……)
冥
(これ、小説か……?)
冥
(この文章……まさか……)
冥
(『桜木ちえり』――…)
【さくらの部屋】
さくら
さくら
――「だけど、あんたが
前の俺がいいっていうなら……」
さくら
さくら
――彼の手が、あたしの顎にかかる。
さくら
さくら
――くちびるが近づいて、
息がかかって……、
さくら
さくら
――我に返ったあたしが
身を引くと、彼は――……
ピピピ♪
さくら
さくら
(は! 目覚まし!)
さくら
さくら
(ウソ! もう朝じゃん!!)
さくら
さくら
(執筆に集中してたら、)
さくら
さくら
(寝るヒマなくなっちゃった……っ)
さくら
さくら
(授業中、寝ちゃわないといいけど)
【教室】
さくら
さくら
すー、すー……
???
???
……い
???
???
おいってば
さくら
さくら
むにゃ……
???
???
もうみんな、教室移動してるぞ
さくら
さくら
……?
さくら
さくら
はっ! そういえば
さくら
さくら
移動教室……っ
さくら
さくら
起こしてくれてありがと!
さくら
さくら
ええと……
そこであたしは、
寝ぼけ眼を大きく見開いた。
さくら
さくら
さくら
さくら
めいくん――!?
冥
なに?
冥
俺の顔見てなんで驚くの
さくら
さくら
いや……だって
さくら
さくら
高校に入ってから、話したことないし
さくら
さくら
そもそも冥くん、他の子とも話さないし
さくら
さくら
(驚くのも無理ないでしょ?)
さくら
さくら
(今書いてる小説の男の子、)
さくら
さくら
(昔の冥くんがモデルだし……)
さくら
さくら
(ってのはあたしの事情だけど)
冥
そーだな
冥
俺、陰キャだし
さくら
さくら
……
さくら
さくら
(否定したほうがいいのかな)
さくら
さくら
(でも、ほんとのことだし……)
五十里いがさと冥くんは
中学からの同級生。
当時は明るくて友達もいた冥くんだけど、
高校に入って
「逆」高校デビューしてしまったのだ。
さくら
さくら
ねえ
さくら
さくら
中学のときは陰キャじゃなかったよね、
さくら
さくら
冥くん
さくら
さくら
クラスのみんなとも普通に話してたし
冥
まあな
さくら
さくら
ねぇ、どうして
キャラ変わっちゃったの?
冥
…………
ジリリリリリリリ♪
さくら
さくら
本鈴!
さくら
さくら
はやく移動しないと!
冥
旧校舎だし、もう間に合わねーよ
冥
サボっちゃえば?
さくら
さくら
え!?
冥
走るのダルいだろ
冥
それに走ったって遅刻だろうし
さくら
さくら
でも……
冥
いいじゃん
冥
眠いなら寝てれば
さくら
さくら
……
さくら
さくら
……
さくら
さくら
……っていうか
さくら
さくら
そういうキャラなんだ
冥
なに
冥
陰キャになったから
マジメだって思ってた?
さくら
さくら
……うん、まぁ……
冥
たしかに俺はキャラ変わったけど、
冥
そこは変わってねーよ
冥
陰キャになったのって、
冥
陽キャすんのがダルかったからだし
さくら
さくら
ダルい……
冥
そ、ダルい
さくら
さくら
……
冥
だけど、
冥
あんたが前の俺がいいって
いうなら……
さくら
さくら
さくら
さくら
(このセリフ!)
さくら
さくら
(……って、なんか顔が近くに)
冥
俺は……
気づくと冥くんの顔が、
もう少しでキスできそうなくらい
近くにあった。
さくら
さくら
(前髪が長くて普段は見えないけど)
さくら
さくら
(キレイな瞳――)
そして、
くちびるとくちびるが
触れそうになるまで近づいて、やっと。
さくら
さくら
ちょ……っ!
あたしは身を引いて冥くんから距離をとった。
さくら
さくら
な、なにするの……
さくら
さくら
(び、)
さくら
さくら
(びっくりしたー!)
さくら
さくら
(心臓がばくばくする……)
冥
…………
冥くんは表情の読めない瞳であたしを見つめて。
冥
話の続き、楽しみにしてる
さくら
さくら
えっ!?
さくら
さくら
(話の続きって)
冥
じゃ、俺寝るから
さくら
さくら
さくら
さくら
ちょっと
さくら
さくら
(ほんとに寝ちゃった!)
さくら
さくら
(っていうかさっきのセリフ……)
――「だけど、あんたが
前の俺がいいっていうなら……」――……
さっき冥くんが口にした言葉は、
あたしの書きかけの小説に出てくるセリフ。
主人公の女の子に、相手役の男の子が
せまる際のセリフなのだ。
……そして、
キスされそうになってしまうのも、今と同じ……。
さくら
さくら
(この高校で同中なのは冥くんだけ)
さくら
さくら
(中学のときに作家デビューした
あたしが、)
さくら
さくら
(小説家『桜木ちえり』だって
知ってるのは)
さくら
さくら
(冥くんだけ……)
さくら
さくら
(だけど……この作品は)
さくら
さくら
(まだ書きかけで、本になってないのに)
さくら
さくら
どうして、知ってるの……?
あたしの小さなつぶやきは、
そのまま虚空へと消えていった。

プリ小説オーディオドラマ